6.前期定期試験の結果【サリアの成績 6】
成績がよくなかったのは、担任の指導のせいではなく、自分のせいだと言っているようにフィーナには見えた。
フィーナの言葉に、サリアは苦笑を浮かべたまま、肩をすくめた。
「最初からわかってたもの。まともな指導は期待できないって」
「――――。
――――え?」
意外なサリアの言葉に、フィーナは声を失った。
「ブリジットと私、少し離れた親戚筋だとは話したでしょう?
ブリジットの家やその周囲に関して、私もある程度は把握してるの。
ブリジットと担任の先生の関係も知ってたわ。
……まさか、そうしたクラス割がまかり通るとは思っていなかったけど。
フォールズ家とキャンベル家の関係って、知られてるから。
担任がクレア・キャンベル様とわかったときから、良い成績は難しいだろうって思ってた。
ブリジットの手前、まともな授業をしてくれるのが救いってところかしら」
「救いって……根本が違うでしょ。
先生なんだから、生徒にきちんと教えるのが仕事じゃない。
どうして何も言わないの? 聞いても教えてくれないって。
家の事情で敵視されてるって」
「言ったからって、どうにかなるものでもないでしょう?
どうにもならないのなら、置かれた状況で対処していくしないわ」
「そんな……」
「それで対処できないのなら、私がそれだけの人間だったと言うだけよ」
口に運んでいたカップをソーサに置いて、サリアは淡々と語る。
「これくらいで根を上げてたら、先は見えているわ」
つと視線を上げて、真っすぐにフィーナを見つめるサリアの瞳には、強い意志が籠っていた。
――サリアは先を――将来を見据えて行動している。
そう、フィーナは思い至った。
目指しているものがあるのだろう。
それが何か、それとなくフィーナはたずねたが、サリアは苦笑を浮かべるだけで答えてはくれなかった。
「今は……言えない。不相応だとわかっているから。
いつか……言える時が来たら話すから」
そう告げた。
フィーナとしてはサリアの置かれた状況が腹立たしくてならないのだが、当人が受け入れているので、外野が騒ぐわけにもいかず、じりじりと胸の奥底が焦げる苛立ちを押し殺していた。
「そういえば」と、サリアが口を開く。
「フィーナは前期試験は……」
聞かれたフィーナは、反射的にサリアから目をそらしてしまった。
なんとなく、バツの悪い思いにかられたのだ。
フィーナの行為で、サリアは状況を理解した。
「さすがね」
素直な賛辞が、フィーナには居心地が悪くて仕方ない。
サリアには、入学試験の結果が、本当の首席はフィーナで次席がカイルだったと打ち明けている。
サリアは前期試験の結果を受けたカイルが、悔しそうにしていた様子を見て、フィーナの結果も薄々勘付いていた。
前期試験の結果も、入学試験結果同様、フィーナが首位、カイルが次席だった。
サリアの賛辞は、心からの思いだ。
市井出身者であるフィーナは、貴族籍の面々とスタート地点が異なる。
セクルト貴院校は、貴族籍の子女が通った中児校を前提に作られた学び舎だ。
勉学内容も、中児校で学んだものを取り入れた授業が多い。
フィーナは貴族籍の生徒からマイナスの立ち位置から始めたはずなのに、変わらず首位を保った現状に舌を巻いていた。
「先生に恵まれてるもの。サリアみたいな状況だったら、どうだったか、わからないわ」
俯き加減に視線をそらせて、ぽそぽそとつぶやくフィーナに、サリアは苦笑する。
「それでもフィーナだったら、どうにかしてたでしょ」
『苛立ち爆発させてる想像しかできないが』
サリアが置かれた状況をフィーナに置き換えて想像したマサトが、うめくようにつぶやいた。
「それでも。あなたが手助けして、成績は保ったでしょう?」
苦笑交じりに――けれど、探るようにたずねるサリアに、マサトは口をつぐんで逡巡した。
ピンとたてた尻尾を揺らめかせながら、思考を巡らせていたが――うまく説明できそうにない。
困っているところへ、フィーナがぽつりとつぶやいたおかげで、マサトから意識がそれた。
「サリアのお願いって……勉強教えてかと思ってた」
「それもお願いするつもりだったわ。
だけど、急にお父様から連絡が来たものだから。
本当に、巻き込んでごめんなさい」
申し訳なさそうに告げるサリアに、フィーナは怪訝な表情を浮かべる。




