5.前期定期試験の結果【サリアの成績 5】
◇◇ ◇◇
サリアに頼まれて、フィーナは薬茶を準備して席についた。
いつもはミルクを好むマサトも、今日は薬茶でいいと告げる。
薬茶が揃って、それぞれがリビングの席についたのを確認して、サリアが口を開いた。
「明日、時間とれるかしら」
明日は休日だ。
今回はドルジェに戻る予定はなかったので、馬車の申請はしていない。
「予定はないから大丈夫だけど――」
サリアが告げた「お願い」は何だろうと考えつつ、フィーナは了承を告げる。
フィーナの返事を聞いて、サリアは安堵の表情を浮かべた。
「よかった。さっき聞いたばかりで――急な話だったから無理かもしれないと思ってたの」
「お願いって――そのこと?」
頷くサリアに、フィーナは首を傾げた。
「明日、何かあるの?」
言いながら、フィーナはマサトに目を向けた。
フィーナの都合を返事したが、サリアは「フィーナとマサトに」と言っていた。
マサトも同行して欲しいのだろうが――。
『俺も大丈夫だ』
ぴんと伸ばした尻尾を揺らして、マサトも承諾する。
マサトの返事を確認して、安堵の色を濃くしたサリアは、フィーナとマサトに目を向けながら口を開いた。
「私と一緒に、家に来てもらいたいの」
「サリアの家に?
え? それって大丈夫なの?
ご家族の許可、もらえてるの?」
サリアの家は、現大臣宅だ。
貴族籍の中でも格式のある家柄だと聞いている。
そのサリアの家に、市井の者が出入りしていいのか。
その点をフィーナは懸念していた。
「大丈夫よ。お父様がおっしゃったことだもの」
「お父様って……」
サリアの父。
ガブリエフ・スチュード。
詳しくは知らないが、現大臣であること、秀でた手腕の持ち主であることは、人々の口にのぼる話から聞き及んでいる。
「サリアのお父さんから呼ばれたってこと……?」
なぜ。との疑問が頭の中を飛び交っているなか、サリアが申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめんなさい。巻き込んでしまって――」
「巻き込んだ?」
フィーナは首を傾げる。
逆だろうと思ったのだ。
巻き込んだのはフィーナで、サリアは巻き込まれたのだろうと。
フィーナの考えを、サリアは察したようだった。
「私の成績の話は、誰から聞いたの?」
話題を変えたと気付いたものの、フィーナはサリアの問いに、カイルとアレックス、マサトから聞いた話、カイルと話した内容をサリアに説明した。
話を聞いたサリアは、意外そうな表情を浮かべていた。
「てっきり、ラナから聞いたと思ったんだけど――」
「ラナはそんなことしない」
思わぬ名前に、フィーナは反射的に答えていた。
ラナとサリアは同じクラスだ。
担任の言動から、ラナもサリアの成績を察しているだろう。
そうだとしても、ラナは口軽く話題にすることはなかった。
「違うの」
フィーナの返答にサリアは苦笑する。
「ラナも私のこと心配してくれてたから。寮の同室者で寮長のフィーナに、クラスの状態を相談するかもしれないと思ってたの」
後で聞いた話だが、サリアの言うように、ラナは担任の行動に懸念を抱いていた。サリアをあからさまに攻撃する担任に対して、何か手だてはないかと悩んでいたが、サリアの成績を明かすわけにもいかず、結果、フィーナにも相談できずにいたのだという。
フィーナがサリアの成績に関して話を聞いたとわかったとき、てっきり、ラナが相談したと思っていた。
偶然、アレックスとマサトが耳にしたとは思っていなかった。
「そのうち、話が広がるとは思っていたから」
担任であるクレア・キャンベルが、名指しでないにしろ、誰のことかわかるように話すのだから、話が広まるのは目に見えていた。
苦笑を浮かべながら、淡々と話すサリアが、フィーナには理解できなかった。
「どうして何も言わないの? なぜ、そんなふうに、冷静でいられるの」
担任の行為は不当だと、訴えてもいいはずなのに。
なのに、声を上げることもせず、甘んじて受け入れているのはなぜか。
こうして話している時も、サリアは不平不満を口にしない。




