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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第五章 それぞれの勉学事情
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4.前期定期試験の結果【サリアの成績 4】


 前期試験が終了して結果が出てしまった現在。


 サリアはどうなるのか、心配していた。


 側にいたアレックスが、自身がセクルト貴院校に在籍していた時の記憶、騎士団に所属しながらも、セクルトは同じ敷地内、漏れ聞こえていた事象をカイルに告げた。


「基本、一年間はクラスが変わることはありません。

 クラス落ちも進級時、同じクラスで持ち上がりでなかったときに話題となります」


「猶予は半年か」


 一年の成績は、前期後期の定期試験を総合して判断される。


 前期試験の結果は覆られないなら、後期試験で取り戻すしかない。


「担任の先生は変えられないの?」


 フィーナの言葉に、カイルとアレックスは渋面で顔を見合わせた。


「……おそらく、無理だと思われます」


 言いにくそうに、アレックスが口を開く。アレックスの言葉をカイルが継いだ。


「すでに半年過ぎてしまっている。担任を変えると、そのクラスの生徒全員が新しい担任に一から慣れなければならず、他のクラスと比べて不利な状態となる」


「でも、今のままじゃサリアが……」


「そのサリアが何も言わないんだ。担任を変える理由がない」


「そんな……」


「だいたい、なぜサリアは何も言わないんだ」


 フィーナもカイルも、サリアの気持ちがわからなかった。


 客観的に見ても、理不尽なことをされているというのに。


 教本だけで学ぶのも可能だろうが、それなら教師は必要ないではないか。


 なぜ「困っている」と声を上げないのか。


『余計なこと、すんなよ?』


 顔を突き合わせて思慮をめぐらすフィーナとカイルに、マサトが割って入った。


 声につられてフィーナとカイルはマサトに目を向ける。


 マサトは後ろ足で耳のつけ根をカシカシと掻いて、口を開いた。


『勝手に盛り上がってるみたいだけど、当のサリアから何も聞いてないんだろ?

 だったら、サリアが言いだすまで待った方がいい』


「でも――」


『自分が明かしてないのに成績のこと言われたら、サリアの自尊心、傷つけかねないぞ?

 言わないのは「言えない」場合だけじゃない。

「言いたくなかった」って時の方が多いんだ』


 マサトの言葉にフィーナとカイルは何も言えず、口をつぐんだ。


 その可能性は二人とも考えていたが「どうにか現状を打破したい」思いが先走りして、サリアの気持ちを置き去りにするところだった。


『王族の一声。……も、ナシだかんな』


「――。……わかっている」


 カイルがサリアの担任に関して、何かしらの苦言を呈して、担任を外す手段を講じないように、マサトが先手を取って口にする。


 頷かざるをえない状況になって、カイルは手段の一つを封じられた。


 フィーナとカイルの話は、そこで一端の区切りとなった。


 マサトと連れだって女子寮に戻ったフィーナは、それからずっとサリアの様子を伺っていた。


 サリアは普段と変わりなく過ごしていた。


 試験結果を聞いた今でも、カイルの話は本当なのか、勘違い、聞き違いだったのではと思うほど、いつもと変わりなかった。


 ……普段と違ったのは、フィーナの方だった。


「どうしたの?」


 自分をじっと観察するフィーナに、根負けしたサリアが声をかけた。


 食事を終え、入浴も済ませ、就寝までの自由時間を過ごす時間帯だった。


 貴院校の授業を終え、寮に戻ってかのらフィーナは、あからさまにサリアを見続けていた。


 こっそり様子を伺うのではなく、細事を見逃さないように、サリアも気付く視線を向けていた。


 じっと見つめるフィーナに、サリアは何度か「なにか?」と尋ねたのだが、フィーナは首を横に振るだけで答えようとしない。


 いっときのことだろうと、深く追求しなかったサリアだったが――自由時間になるまで、フィーナの行為は続いた。


 フィーナの行為を目にした女生徒が、ひそひそと耳打ちし合うほどに、その行為は顕著だった。


 たずねたサリアに、フィーナは首を横に振って「何でもない」と答えたのだが、今度はサリアが引き下がらなかった。


「何でもないじゃないでしょ。言いたいことがあるなら言って。

 じっと見るだけで何も言わない。

 そんな態度とられる方が、気持ち悪いわよ」


「――いいの?」


『フィー――っ!』


 マサトが告げるより、フィーナの行動の方が早かった。


 マサトを抱き上げると、フィーナの個室ベッドに放り投げて、扉を閉めて隔離する。


 ネコ特有の軽い身のこなしで、ベッドの上に着地成功したのまでは見届けた。


 扉の向こうから『開けろ!』と声が上がっているが、無視して鍵をかけた。


 フィーナと彼女の伴魂のやり取りに、サリアは目を丸くしていたが――マサトを締めだしたフィーナの表情の硬さに気付いて、自然と引き締まる思いにかられていた。


「前期試験の結果。どうだったの?」


 前置きもなく核心をつくフィーナに、サリアは目を見開いて息をのんだ。


 真っすぐに見つめてくる同室者を、サリアは見つめ返しつつ、表情の揺れを見つめ、今日の朝から寮に戻ってくるまでの状況に思慮を巡らせる。


「なぜ知っているのか」「誰から聞いたのか」


 ――そうたずねることなく、サリアは行きついた答えに、小さく息をついた。


「――聞いたのね」


 サリアの言葉に、フィーナは顔をゆがめた。


「どうして――」


 話してくれなかったのか。


 相談してくれなかったのか。


 様々な思いが胸の内でない交ぜとなって渦を巻く。


 それ以上、言葉にできなくて、フィーナは俯いて唇を噛みしめた。


(――話してくれなかったのは、私が頼りないから)


 それが答えだろうと思えたからだ。


 申し訳ない気持ちと、自分のふがいなさに腹立たしさをフィーナは感じていた。


 フィーナの様子に、サリアは苦笑した。


 俯くフィーナの腕にそっと手を添えて「気にしないで」と声をかける。


 サリアの声に顔を上げたフィーナは、口をへの字に曲げて、眉間に皺を寄せている。


 今にも泣き出しそうな顔で「「気にしないで」じゃないでしょ?」と言いたげであるのはサリアも感じた。


 ――言えないのは、今、口を開くと泣き出しそうだったから。


 それはサリアもわかっていた。


「ちょうどよかったと――言うべきなのかしらね。

 私からも話があったの」


 言いながら、フィーナの個室に足を向けて、閉ざされた扉の鍵をあけて、扉をひらく。


 それまで『開けろ~』『出せ~』と声を上げながら、扉にカリカリと爪をたてていたマサトを開放して、リビングに招く。


 マサトはサリアを見て――取りみだした様子がないことに怪訝な表情をのぞかせていた。


 フィーナとマサトは、サリアに言われるまま、リビングに腰を下ろした。


 対面で座るフィーナとサリアの間、少し離れた机の上に、マサトが座っている。


 サリアはおもむろに口を開いた。


「フィーナとマサトに、お願いがあるの」





今回はちょっと長めです。

二つに分けると、二つとも短くなるか、後半が短くなるので。


(2019.11.27.pm17:50追記)

ちなみに。

実家の家猫。時々脱走する子は、戻ってきて家に入れてほしい時に、ドアをカリカリ掻いて「入れて~」とアピールします。(笑)

マサトの扉カリカリも、そういうイメージです。


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