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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第五章 それぞれの勉学事情
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3.前期定期試験の結果【サリアの成績 3】


「フォールズって……」


 聞き覚えのある名に「誰?」とフィーナは首を傾げる。


「ブリジット・フォールズだ。覚えてるだろ?」


「ああ、ブリジット――。

 って、え? ブリジット?」


 鈍いフィーナでも、カイルが渋い顔をする理由、サリアのクラスの異常さ、同時になぜそうした状況に成りえるのかに驚いていた。


 カイルは続けて告げる。


「フォールズに取り入り、フォールズが煙たがるスチュードを、フォールズに同調して煙たがっている」


「そういう人が担任になって――いいの?」


 生徒も教師も互いに分別をわきまえる性格なら心配ないのだが、カイルはキャンベル家はフォールズ家に取り入り、スチュード家を疎んでいると言っていた。


 これまでのブリジットの素行、周囲の人間を見ている限り、クラスでも同じことが行われているのではと推測できた。


『だからか』


 つぶやいて、マサトはため息をつく。


『担任が気持ち悪いくらいブリジット取り上げるから不思議だったんだが、そういう事情なら納得だ。

 ――カイルとフィーナなら想像できるだろう? サリアが置かれている状況、担任の対応。

 そんな中で、まともな成績とれるわけないだろ。

 副寮長、校外学習の運営陣の忙しさが、成績落ちた理由じゃねーよ。

 そうした仕事なくても、根本をどうにかしないと、なにも変わんねーから』


「サリアのクラスで何があったか、具体的に覚えているか?」


 尋ねるカイルに、マサトは『う~ん』と目を閉じて記憶を探っていた。


 詳細は忘れたものの、概要として次の事を話した。


 先ほど言ったように、些末なことでもブリジットをほめちぎる事。


 そしてサリアの粗をさがして、教壇で話題にすること。


 ブリジットを褒める件はおかしくないとしても(度を過ぎた称賛である件は目をつぶったとして)、サリアを攻撃する状況に、フィーナもカイルも驚いていた。


 教師がすることとは思えない。


 マサトが言うように、教師の資質が問われる状況だ。


『あとはサリアが授業でわからないところを聞いても、まともに答えなかったな。

 それでもセクルト入学当初は嫌味言いながらも教えてたんだよ。

 それが校外学習の後――定期試験が近付いてから、対応がひどくなった。

 わからないから尋ねたサリアに「そんなこともわからないのか」と鼻で笑って「授業を聞いていればわかることだ」……って言って、サリアにだけ教えないんだ。

 同じ箇所がわからない、他のクラスの奴にはキッチリ教えてんのにさ。

 そんな状況で、成績上がるわけねーだろ』


 フィーナもカイルも、サリアが受けた仕打ちに驚いて、しばらく何も言えなかった。


 サリアが置かれていた状況が、想像の範疇を超え過ぎていた。


 マサトの話を聞いた二人が思い起こしたのは、ダードリアの対応だ。


 ダードリアは生徒一人一人と真摯に向き合って、授業でわからないことがあると言われれば、それがどこか、どのようにわからないのかと聞きだした後、わかりやすいように教えてくれる。


 ダードリアの指導方法がセクルト貴院校で普通だと思っていたフィーナとカイルにとって、サリアの担任の行為は常軌を逸していた。


 フィーナもカイルも、サリアから担任に対する不満を聞いたことがない。


 そのような状況なのに、なぜ「理不尽だ」と声を上げないのか。


 サリアの心境が、二人にはわからなかった。


「サリアは前期試験の結果、知ってるんだよね……?」


 訊かずとも、フィーナ自身、理解している。


 個人個人に成績が通達されたのは、つい一週間前のこと。


 ――恨み事を言われてもおかしくないのに。


「あなたに関わって――しなくてもいい余計な仕事をしてたから、勉強する時間なくて、試験結果が悪かったのよ!」


 ――等の罵りを受けてもおかしくないのに、サリアは変わらない態度でフィーナに接してくれている。


 サリアはなぜ、自分が置かれた状況を話してくれなかったのか。


(……頼りない、から……?……)


 自問した答えに、フィーナは自分で答えを導き出した。


 自分で導き出したものが答えだろう、フィーナは思う。


 フィーナはサリアに頼りきっていた。


 頼ってばかりくる相手に、自分の相談ごとなど、できるわけがない。


 それがサリアの思いなのだろう。


 思いをめぐらせて、フィーナは自身のふがいなさが腹立たしくて仕方なかった。


 手助け以前に、サリアの異変に気付いてもおかしくなかっただろうに。


 前期定期試験の結果を受けて――。


 セクルト貴院生、全学年全生徒に一斉に通達された時のことを思い起こしたものの、フィーナの記憶にあるサリアは、普段と変わらない態度だった。


 だからフィーナも気付かなかったのだ。


 サリアの成績が、それほど落ち込んでいたことに。


「どうなるんだ?」


 口を開いたのはカイルだった。




※2019.11.26

すみません。前話、昨日訂正しています。

スチュードとフォールズ、逆でした。

サリアとブリジット。

名前は「サリア・スチュード」「ブリジット・フォールズ」になります。

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