62.魔法の作用 2
人の姿をしていた気配、精霊ではないのかという点を、マサトは訝っているようだった。
カイルの言葉に、マサトは答えず、肩をすくめるに留めている。
『けど王子様の様子じゃあ……それが何か、見当ついてるみたいだな』
「そう言うわけじゃないが……」
カイルとしては、フィーナとマサトに尋ねれば、答えが得られると思っていた。
まさか二人が「わからない」『見えない、感じないし、勘違いだろう』と言いだすとは思っていなかった。
戸惑いながらも、カイルは自分の考えを口にした。
「水の女神では……ないのか?」
「え? そうなの?」
おそるおそる口を開くカイルに、フィーナは単純に驚いて、マサトは軽く目を見張った。
『精霊より大層な御方だな。なぜそう思う?』
「似ているだろ」
「そうなの?」
『そうなのか?』
カイルとフィーナとマサト。
それぞれの見識の違いが明らかとなり、三者三様、戸惑いを覚えていた。
「似ていただろ?」
カイルは、存在を感知し、姿も見えたフィーナに確認した。しかしフィーナは「え……」と困った表情を浮かべた。
「だって……私、水の女神様がどんな御姿をされてるのか、知らないもの」
「――あ……」
言われてカイルも気付いた。
神々の御姿は、一般には秘匿とされている。
神々の御姿を写した聖画は、王族、教主だけが閲覧できる物だった。
聖典には神々の御姿に関する記述があるので、王族、教主以外の者は想像するしかない。
既存の物語の挿し絵にも、神々の姿は描かれず、明確に描かない、さまざま手法をとっていた。
王族であるカイルは、教養の一つとして神々についても学んでいた。その際、聖画も目にしていた。
『そう言えば、国王と教主では、役割違うんだよな?』
マサトの言葉に、カイルは頷いた。
「国王は神々の声を民に伝える。
教主は民の声を神々に伝える。
それぞれの役目の関係から、王族と教主は聖画を見ることを許されている」
そうした関係で、カイルはどの神がどのような姿をしているのか、知っていた。
『――ってことは、フィーナと王子様が見たのは、水の女神ってことか?』
「わからないから、聞いているんだが」
『ああ、そうだったな。
フィーナ。
その気配ってのはどんな感じだった?』
「どんなって――。
なんか、瑞々(みずみず)しい感じ?」
『それ、水の女神って聞いたから言ってるんじゃないのか?』
じとりと淀んだ眼差しを向けるマサトに、フィーナは頬をふくらませた。
「違うわよ。――けど……水宴使おうとして、水に意識を向けてたから……そのせいで水に対する感覚が強くなってたかも……」
その時を思い出しながら、フィーナも自信なさそうに告げる。魔法に集中していたので、気配を感じて、伴魂との意思の疎通に似たやり取りを、意識下でしたのは確かだが、詳細は気に留めていなかった。
フィーナとカイルの話を小馬鹿にすることなく、頭から否定することなく、マサトは聞いてくれるが、信じていない様子はカイルも感じていた。
正直なところ、カイル自身、信じられないのだ。
まさか「過去には接触した者もいるが、今現在、見た者、接触した者はいないとされているものの、存在は確かな」な神の一人(と思しき存在)を、間近で感じることになろうとは、思ってもみなかった。
『王子様の言うように、それが水の女神さまだったとして。
何かあるのか?』
首を傾げるマサトに、カイルは「……いや……」と言い淀んだ。
何かあるか。
あるに決まっている。
神を降臨させたと騒がれてもおかしくないのだが、気配を感じたのは唱えたフィーナと側にいたカイルだけという状況が、彼の思考を混乱させた。
マサトが見ていない、感じない状況も、カイルに「見間違いだったのでは」と思わせた。
とりあえず、不可解な部分が多すぎるので、フィーナとカイルが感じた存在は、二人が感じたのだから、何かしらあるだろう、ただ、それが何かわからない。
……という状況に留めおくことにした。
マサトは終始、鼻じろんでいたが、カイルとフィーナには証明する術はなかった。
昨日は更新できなくてすみません。
一昨日(下書きする日)は上司が休みで、その上司に対する問い合わせに答える作業(急ぎの案件)に、てんてこ舞いになってました。
帰ってからは疲れて、寝てしまってました……。