61.魔法の作用
◇◇ ◇◇
「あれは、何だったんだ?」
放課後。
フィーナは魔法鍛練場で、マサトに課せられた日々のノルマをこなしている時だった。
同じく、カイルも魔法鍛練に取り組んでいた。
今日はアレックスは所用があるとのことで、レオロードだけが同席している。
カイルの護衛騎士二人も、魔法の鍛錬に励んでいて、自分自身でも成長具合がわかるほど能力の高まりを感じて歓喜し、さらに魔法鍛練に熱を入れていた。
フィーナも鍛練を終えて、体力と魔力の回復を待っている間、同じく、疲弊して回復を待っていたカイルが唐突に尋ねてきた。
「あれって?」
休んでいるフィーナとカイルと違い、レオロードは鍛練を続けている。
レオロードがどこにいるのか、場所を確認してからフィーナは首をかしげた。
フィーナの隣でベンチに腰をおろしているカイルが、聞き返されて眉を寄せた。
不機嫌だからではなく、どう説明していいのかわからないのだと、言葉を探す様子からフィーナにもわかった。
「騎士団の屋外鍛練場で――水宴を唱えた時……側に何か……女性のような存在が……なかったか?」
尋ねたものの、カイル自身、不安を覚えたようだ。
尻すぼみになる声が、心情を伝えていた。
不安をおぼえるカイルとは逆に、フィーナは驚きに目を見張った。
「カイルも見えた!?」
顔を輝かせて身を乗り出すフィーナの反応は、カイルが予想したものと違っていた。
気圧されるカイルにかまうことなく、フィーナは「ほら、やっぱり!」と声を上げて、離れた場所で顔を伏せて寝ているマサトを呼び寄せた。
眠そうにあくびしながら側に来たマサトに「カイルも見えたって!」と嬉しげに報告している。
「ほらほらほら! 勘違いじゃなかったでしょ!?」
フィーナが言うには、フィーナとカイルが感じた存在を、マサトは感じたことがなく、信じていないのだという。
唐突な話の切り出しながら、マサトにはフィーナが何の事を言っているのか、すぐにわかったようだった。
驚きに目を見開いた後『……へえ?』と、薄ら笑いを浮かべている。
『王子様も見えたんだ?』
不遜な笑みには疑念が透けて見える。フィーナとカイルを交互に見たマサトを、カイルも同じく、フィーナとマサトを交互に見た。
「あれは……何なんだ?」
尋ねるカイルに、フィーナはきょとんとした。
「……さあ?」
首を傾げるフィーナに、カイルが拍子抜けする。
「さあ。……って……わからないのか?」
「だって……マサトも『見えないし、気配も感じない』って言うし……。見えたり感じたりするの、私だけだったし……。魔法使う時、いつも見えるわけじゃないし、気配感じたのも、この前ので……三回目か四回目くらいだし……。私は精霊さんだと思ってたから」
話を聞きながら、カイルは思いだす。
フィーナの無頓着な一面を。フィーナは「問題なければそれが何かわからなくても構わない」と思っている節があった。
「精霊……」
「物語であるじゃない。魔法を使う時に手助けしてくれる精霊さん」
「それは作り話だろう。現実じゃない」
「わかってるけど。でも、他に考えられないんだもの。
マサトも知らないって言うし」
助けを求めるように、フィーナはマサトに目を向けた。
つられて見たカイルと、二人の視線を受けて、マサトは肩をすくめた。
『見えないものは信じない性分でな。
フィーナが言ってるのも、魔法を使ってる時の何かしらの作用でそう見えたと思ってる。
……けど、王子様が見えたってのはおもしろいな?』
「そう言いながら信じてないだろ。言っていることと表情が合っていない」
マサトと接する時間が増えたことで、カイルも白い伴魂の考えを察するようになっていた。