59.国交とフィーナの立場 15
なぜだろうと考えているところへ、不意にある言葉が脳裏をかすめた。
――いじめっ子は嫌いよ!
向けられた言葉に、ザイルは戸惑っていた――。
「フィーナ嬢が言ったことを、気にしているのですか?」
ふと出た言葉に、告げたリーサスも告げられたザイルも驚いた表情を浮かべる。
リーサスも、自身の口からこぼれ出た言葉に、告げた後で自分が告げたのだと気付いて、驚きを隠せなかった。
互いに互いを伺って、ザイルが先に口を開いた。
「気になって当然だ。
『ぐらたん』がどういったものか――。
ああ。フィーナはいつ作ってくれるのか――」
「料理の方ですか」
拍子抜けしたリーサスの言葉に、ザイルは鋭い眼差しを向ける。
「食べてみたらわかる。食の理念を覆されるぞ?」
マサトが教えた調理法でフィーナが作る料理は、これまでに口にしたことのない味が多いのだと、ザイルは熱弁した。
「そ、そうですか……」
ザイルの熱に気圧されながら、先ほどまでの威圧的な長兄と今の長兄の落差に、リーサスは戸惑ってしまう。
フィーナを伺うザイルにつられて、リーサスもフィーナに目を向ける。
自分より魔力が少ないのに、大規模な魔法を成した少女――。
料理を気にする長兄とは違う思いで、リーサスはフィーナを見ていた。
一方、フィーナは想定した事象が起こらず、肩を落としていた。
そのフィーナに、マサトが声をかける。
『覚えてたのか?』
マサトにはフィーナが成そうとしていた事象が想像できた。
フィーナが試そうとしていた魔法を聞いた時から、事象の可能性は考えていた。
これまで虹がどのように発生するのか何度も聞かれてし、フィーナ自身、書物を探していることには気付いていた。(記された書物を見つけたのかは不明だが)
マサトとしては、霧となった水宴に日が当たって、薄ぼんやりとしたものながら、生じた虹を見て、フィーナの思惑は成功したと思ったのだが。
落胆する様子を見て、望んだのは似ているけれど違うものだと察した。
そうしてようやく――フィーナが成そうとしたものを知ったのだ。
水宴から生じた霧は、数十秒後には消えていた。
マサトに聞かれてフィーナは「……うん」と頷いた。
以前、マサトの過去を意識下で見た時。
妹と思しき女性を見た風景の中で、その女性が幼いころの精巧な絵が飾ってあった。
絵には、幼いころの女性より、少し年上の男児と、頬を寄せて二人で笑っていた。
その背景には、七色の弧を描くものが描かれていた――。
その絵は『写真』というもので、七色の弧を描くものは『虹』なのだとマサトは話した。
虹がどのように発生するのか、マサトに尋ねて、自分でも調べてみた。
文献には霧の中で見かけた事例が書かれてあって、それはフィーナもこれまでに見たことがあるものだった。
フィーナはこれまでにも、水宴で小規模の虹発生を試みていた。
虹がどのように生じるかも聞いて、水宴の水球を細かな水滴に変じて試みたのだが、うまくいかなかった。
マサトが人として存在した世界では、時々、虹が発生すると言う。
フィーナも霧の中でみたことはあっても、マサトの記憶に有るような巨大な虹を見たことはなかった。
今回、魔法の実演をすることになって。
試したいものをしてみていいと言われて。
広大な土地で、試せるのならと、試みたのだった。
フィーナの魔法で、虹は生じた。けれどそれは、これまで目にしていたものの規模が大きくなっただけのものだった。
薄ぼんやりとしていて、写真にあったような精密な鮮明さはなかった。
そうして落胆するフィーナを見て、マサトはフィーナが考えていた虹がどういったものか、感づいたのだった。
話の展開をすっきりさせたいのですが(虹に関するところとか)、推敲より更新を優先させました。
後に推敲したとしても、話の本筋はかわらないと思ったので。




