55.国交とフィーナの立場 11
リーサスが苦悶の呻きを漏らす。
「マサトもやめるように言って!」
こんなつもりではなかった。
リーサスに進言したのは、魔法を行使する際の負担が減ればと思っただけだ。
フィーナの願いに、彼女の伴魂は肩をすくめて『だから無理だって』と告げる。
『ザイル、結構いっちゃってるもん。俺の言うことなんて聞きゃしねーよ』
「でも――っ!」
『人の話を聞こうとしなかった、リーサスの自業自得だろう? ほっときゃいいんだって』
フィーナが頼んでも、他人事として態度を崩さない自身の伴魂、「やめて」と声を上げても聞き入れないザイル。
一伴魂と一人の態度と行動に、フィーナの焦りと苛立ち、怒りが頂点に達した。
その怒りで、身の内で何かが弾けたように思えた。
そう思った時には、考える間もなく、行動を起こしていた。
「ザイルっ!!」
怒りにまかせた声は、腹部の奥底が震えるほどの力がこもっている。
それまで見向きもしなかったのに、その声にザイルは驚いた表情を向けた。
フィーナは叫ぶと同時に、肩に乗っているマサトを両手でつかんでいた。
『――え?』
状況が理解できず、きょとんとする白い伴魂を――フィーナは力任せにザイルに投げつけた。
『はっ!? え、ちょっ! ニギャッ?!』
「なっ――!」
さすがのザイルも、マサトを木棒で打ち払うわけにもいかず、リーサスから離れて投げられたマサトを避けた。
マサトは猫特有の軽い身のこなしで、うまく着地する。
着地はうまくいったものの、想定外の出来事に、心臓がバクバクと早鐘を打っていた。
『おまっ――! 何すん――』
「フィー――」
「水宴!」
マサトとザイル、それぞれ抗議の声を上げようとするところへ、フィーナの呪文が被さる。
唱えたフィーナの右手には、両手で輪を作ったほどの水球が生じていて、フィーナはそれを投げつけようと、ふりかぶっていた。
マサトもザイルもギョッとした。
ザイルはフィーナの行動を予測できる。
投球する動作で飛んできた水球を、ザイルは左に体を傾けて避けた。
ザイルに水球が命中していれば、ザイルの足元にいるマサトにも水がかかる。
ザイルが避けたことに、本人とマサトは、ほっと息をついて、フィーナに抗議の声を上げようとした――。
「フィー――」
『おま――』
――ところへ、フィーナが左腕で続けざまに水球を投げつけた。
「『っ!?』」
完全に虚を突かれたザイルは、顔面にまともに水球をくらい、その水はザイルの足元にいたマサトにも降りかかった。
フィーナは一度の呪文で、二つの水球を生じさせていた。
一つはザイルとマサトの死角に留め置き、最初の一つを投げて避けた油断をついて、残りの一つを投げつけたのだ。
不意を打たれて濡れたザイルとマサトは、硬直して水を滴らせている。
「少しは頭、冷えた!?」
数秒の硬直の後、ザイルは腕で顔を拭い、マサトは身を震わせて体毛にかかった水分を飛ばしていた。
「しかし――」
ザイルとしてはリーサスを叱ったと同時に、フィーナを庇ったつもりだった。
フィーナから見ると、リーサスに対する行為は行き過ぎて見えるかもしれなかったが、ザイルとしては「許容内」と判断していた。
リーサスは騎士でもある。
体躯は人より鍛えてある。
そうしたザイルの想いは、フィーナもわからないではなかったが、行き過ぎ感がどうしても否めなかった。
フィーナの不意打ちです。
強力な力で問答無用に。
――ではなく、誰でも使えるもので、使い方次第で対処する。
この物語では、それを基本で考えています。
強力な魔法もあって、使う機会もいずれは出てくるかもですけど。