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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第四章 人語を介す伴魂
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54.国交とフィーナの立場 10


 持ち手を守るつばがあり、本来、持ち手への攻撃は困難なのだが、ザイルはそれを成し遂げた。


「ッつっ!」


 痛みで、リーサスは剣を落とした。


 そのリーサスの腹部を、ザイルは蹴りつける。


 防ぐことができなかったリーサスは、苦悶の呻きを漏らした。


 それでも、ぐっと我慢して倒れないよう持ちこたえたところに、ザイルがリーサスの頭部を――髪を掴んで、地面に打ち付けた。


 ガッ、……と、鈍い音が響く。


 リーサスは現状を理解できないまま、長兄の成すがままとなっている。


 周囲も、ザイルの意図するところを理解できず、ただただ、現状を見ていることしかできなかった。


「武芸に励んでいたいから魔法が苦手だ……?

 よく言えたものだ。

 だったら、騎士としての必須、硬盾デュスクは簡単に成し得ておかしくないはずだろう?

 硬盾デュスクは、騎士は呪文ルキで成すべきとされている。

 お前は前詞アンセルなしではできないのだろう?

 フィーナは呪文ルキで成せると言うのに。

 硬盾デュスクが簡単に出来ないのなら、それはお前の鍛錬不足、怠慢だ。

 必須である硬盾デュスクでさえ、そのような状態なのだから、他の魔法など余計に鍛練などしていないのだろう?

 そうした状況で、魔法が苦手だ、年下の者から助言は受けたくないなど……それこそ何さまのつもりだ。

 自分の怠慢を棚に上げて、助言をくれる者の声も聞かず、排除しようなど……奢っているのはお前の方だ」


 リーサスの頭部を地に押しつけたまま、ザイルは告げる。


 そうしたまま、コテージのデッキへと顔を向けた。


「ディルク!」


 名を呼ばれた次兄が、顔と体を強張らせる。


「野放しにして、何をしていた?

 弟の教育がなってないのは、お前の怠慢だ」


 ザイルの言葉に、ディルクは両の拳を握りしめ、口元を引き締めた。


 ディルクはザイルから、剣術と魔法の鍛練を受けていた。


 厳しくつらいものだったので、自身が受けた苦行を、弟であるリーサスには強いたくなかった。


 厳しくせずとも、リーサスは優秀な成績をおさめていたので、それでいいとディルクも思っていたのだが――。


 ザイルとリーサスの実力の差をまざまざと見せつけられ、ディルクは自分の考えの甘さを痛感していた。


 ザイルから手ほどきを受けていたらしいフィーナの、状況を瞬時に理解して、有効な対応をとった経過を見た後なので、リーサスの対応のまずさがより浮き彫りとなる。


 おまけにリーサスは騎士、フィーナは学生である。


 年齢、二人の職業が、よりリーサスとフィーナの能力の差を際立たせていた。


「ちょ――ちょっとザイル……」


 自身が「合格」となって安心したところへ、リーサスを打ちすえる状況を目の前で見せつけられたフィーナは、生々しい状況に戸惑い、青ざめていた。


「そんなこと、やめて」と告げようとしたフィーナの肩口に、マサトがするりと乗って『やめとけ』とフィーナを諌めた。


『兄弟間の教育的指導だ。余所者が口出すことじゃねーよ』


「でも……」


『仕方ねーよ。いつか誰かガツンと言わなきゃならないことだったからな。

 ディルクが指導しとけば、こうまでならなかったんだろうが。

 優しさと事無かれ主義とは別物だ』


「でも私がリーサス様に言ったから……」


『それを聞き入れない度量の狭量はリーサスの罪だ』


「えと、あのね。違うの。私が言いたかったのは……。

 ――っ! ザイルやめて!」


 落とした剣を拾おうと、手を伸ばしたリーサスの腕を、ザイルが踏みつけ、剣を蹴って遠くに退ける。


 踏みつけようとするザイルに気付いたフィーナが、叫んで止めようとしたが、ザイルは聞き耳を持たなかった。





ザイルの教育的指導です。

……厳しいですが……。


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