53.国交とフィーナの立場 9
ザイルは側にあった――後から思えば、リーサスの苦言を呈する前に側に持ってきていたのだろう――1メートルほどの木の棒を拾い上げ、重さや握り具合を確かめている。
その後、上下左右に振って、動きを確かめていた。
片手で持てる木の棒の具合を確かめた後、ザイルは利き手である右手に持ちかえて、軽く腰を落として構えをとった――。
「――っ!?」
ざわりと、背筋が総毛立つ恐怖を抱いたフィーナは、反射的に後方に跳びずさった。
フィーナの腕の中にいたマサトも、するりと腕の中から抜け出して、地に降りたつ。
構えをとったザイルは、間髪いれず、踏み込んで木棒を横薙いだ。
ザイルが木棒を振ったのとフィーナが後方に跳びずさったのは、ほぼ同時のことだった。
後方に下がらなければ、フィーナが居たであろう場所を、ザイルが横薙いだ木棒が空を切る。
手加減しているのはわかるが、それでも当たれば痛い。無傷ではいられない。
(本気……!?)
ドルジェでは、魔法はマサトに鍛練を受け、護身術をザイルから受けていた。
手加減しているものの、ザイルは攻撃の手を休めない。
なぜ木棒をふるってくるのか、理由を考える暇もない。
「まだですよ」
「っ! 硬盾!」
続けざま振るわれる戟を、反射的に唱えた魔法で防いだ。
腹部に生じた淡い光を放つ盾が、鈍い金音と高い金音を同時に生じさせ、ない交ぜとなった音をたて、ザイルの木棒を防いでいた。
衝撃はない。
それがザイルが本気でなかった証しなのだが――唐突に始まった行為に、フィーナの鼓動は早鐘を打ち続けている。緊張で体も強張り、呼吸も荒い。
「――お見事」
硬盾を生じさせ、身を守ったフィーナに、ザイルは薄く笑って「合格」を告げる。
ザイルの言葉を聞いて安堵を感じると同時に、どっと冷や汗が全身を包んだ。
一応の安心はしたが、依然、体は緊張したままだ。
全身の毛穴が開いたのではないかと思うほど、冷や汗が出ている。
一方、リーサスは、唐突に始まったフィーナとザイルのやり取りに呆気にとられていた。
ザイルはリーサスにも宣言していたのだが――ザイルとリーサスは武的なやりとりをしたことはほぼない。
リーサスが剣術を始めたころには、ザイルは騎士団に所属していたので、家に帰る機会が少なくなっていた。
結果、リーサスとザイルは兄弟ながら、共に過ごした時間が少ない関係となっていたため、ザイルはリーサスの考えを、リーサスはザイルの考えを、押してはかれない部分が多々あった。
これまではザイルとリーサス、接点がなかったのでどちらも互いに対して思うところもなかったのだが。
フィーナとリーサス、二人のやり取りは、傍から見ていたザイルの逆鱗に触れた。
これがリーサスがザイルの身内でなければ、侮蔑するだけで終わっていた。身内であり、弟であることが、ザイルの怒りを高めていた。
ザイルはフィーナに斬りかかる前に、リーサスにも宣言していた。
「硬盾で守れ」
――と。
フィーナは言われた通り、成し遂げた。
次はリーサスの番なのだが……ザイルの思いを汲みとれないリーサスは、完全に出遅れた。
フィーナに木棒で斬りかかったザイルは、硬盾で防がれた流れで、低く腰を落としたまま、半身を転じてリーサスに横薙いだ戟を振るう。
「っ!?」
完全に虚をつかれたリーサスだったが、そこは普段、剣術をたしなんでいる騎士として、反射的に引き抜いた剣の腹で防いでいた。
金属に木棒が衝突する鈍い音が響く。
ザイルの戟を防いだことに、リーサスがほっと胸をなでおろしたところで――。
「――遅い」
眉間に皺を寄せて吐き捨てるように告げたザイルは、木棒を左手に持ちかえると、上段から振り降ろして剣を握る手を打ちすえた。
結構書き溜めできたので、本日二度目の更新です。
更新量、少なめだともっと更新できるのですが。
以前は他の小説で、一日に7回更新したこともありました。
一回の文量が600字~700字程度でしたので。
今は1500字前後です。
フィーナ。
リーサスとザイルの兄弟間のやり取りに、巻き込み事故にあってます。(苦笑)
ここまでリーサスとザイルに関して、話が広がるとは思ってませんでしたが、ベルーニア家兄弟の関係がわかったかな? ……とは思ってます。




