18.伴魂試験(年度最終)と意思の疎通
アルフィードがフィーナと伴魂にリングを付けてからしばらくして、小児校で特別にフィーナだけの伴魂試験が行われた。
教師陣はフィーナが伴魂を取得したと聞いて、声を上げるほど喜んで、伴魂がネコと知ると潮が引くように意気を沈めた。
教師陣もこれまでに生徒を受け持った経験と知識から、魔力のつり合いは取れているのかと懸念した。
伴魂を取得して一月近く経っていること、その上で日常生活に支障なく、フィーナも体調不良なくすごしていると聞いて、懸念はないだろうと判断したようだった。
そうして数日後に設けられた伴魂試験。
伴魂との意思疎通を確認する試験だと聞いていたが、それまでフィーナは意思の疎通らしき状況を経験したことはなく、正直、試験を合格できるのかと不安だった。
試験は、教室内に設えた席でフィーナと伴魂を壁で隔てて、伴魂にだけ物を見せて、それを主が答えるというものだ。
もちろん、人側からは物は見えない。
そうした状況で、映像のような声のようなものが、フィーナの意識下にすべりこんで、ふっとその物が脳裏に浮かんだ。
「りんご?」
反射的に答えて、これが意思の疎通なのかと、初めて認識した。
フィーナの答えに「正解」との声がして、それから三回ほど、物を変えて同じことを繰り返した。
その時には、フィーナにも意思の疎通がどういったものか、はっきり認識できた。
試験は無事合格。
晴れて進級となったのだった。
認識して改めて思い出すと、そうした行為はこれまでにもあった。
ただ、近くにいた時だったので、ネコが見たもの、感じたものをフィーナが見たもの、感じたものと勘違いしていた。
理解すると同時に、首を傾げることもある。
試験での行為が意思の疎通だと言うのなら――。
『前』
「え?」
うつむいて歩いていて顔を上げると、目の前に木の枝が伸びていて、額をしたたか打ち付けた。
「いった~!」
小児校からの帰り道。
今日はカシュートと森へ薬草を取りに行く約束をしていたので、マーサとジークとは別に、フィーナは一人で帰路についていた。
……否。
伴魂のネコと一緒に帰り道を歩いていた。
時折、ふらりと姿をくらます伴魂だったが、特に支障もないので放置している。
姉のアルフィードにも状況を伝えているが、何も言ってこないので、まあ、大丈夫なのだろう。
アルフィードとしては「良し」とはしていないのだが、伴魂の魔力の量を考えて、魔力を消費しないよう、安静にしているのか、足りない分を自身で補給しているのか。
どちらかだろうと考えていた。
……後者は実際違うとしても、経口摂取の想像したくはなかった。
時々、行方をくらますフィーナの伴魂だったが、今日の試験の事は何日も前から言い聞かせて「絶対、その日は一日一緒にいてね」と命じていた。
命が効いたのか理解してくれたのか、はたまた気まぐれか。
ネコは今日は一日、フィーナの側から離れようとしなかった。
打った額を押さえて涙目になっているフィーナに、ネコが嘆息した。ように思えた。
『下ばかり見てるからだろ』
かすかに聞こえた、ぽつりとつぶやく声。
がばっと声の方を見ると、驚いたネコが目を丸くしてフィーナを見ている。
確かに、今。
今、確かに。
「しゃべった?」
フィーナの言葉に、ネコがぎくりと身を強張らせたように見えた。
焦る気持ちが、フィーナに流れてくる。
――やっぱり!
「お話、できるの?」
意識下に告げるのではなく、耳に聞こえる声で――フィーナとだけなく、他の人にも内容が理解できることを言えるのでは。
そう言った意味で確認すると、ネコは耳を伏せて上目づかいにフィーナを見つつ、徐々に体をかがめながら体勢を低くしている。
そして何のことかと言わんばかりに一声鳴いた。
『にゃ、にゃあ?』
「それ絶対違う!
話せるでしょ!?
人の言葉、言えるんでしょ!?」
とぼけたように鳴くネコに、フィーナは即座に反論した。
思い返せば、これまでにも声らしい物は聞こえていた。
最初は空耳かと思い、気のせいだと思い、やがて「これが意思の疎通?」と考え始めたつい先頃があっての、今日の出来事だ。
ネコはおどおどしながら『にゃあ』としか言わない。
ウソだ。
絶対ウソだ。
フィーナにはネコが話すと自信があった。
今日のような人の言葉が聞こえたのは一度ではないのだ。
それを踏まえての今日。
伴魂試験を経て理解した。
するりと意識下に――身の内で感じることが意思の疎通なのだと。
これまで「これが意思の疎通?」と思われた事象は、耳で聞こえたものだ。
「話せるんでしょ!?」
聞きたいことはたくさんあった。
「意思の疎通」はよくわからなくて、試してみても相手に届いているか、わからない。
返事がないのは届いてないからだと諦めていた。
だが、話ができるなら、それに越したことはない。
迫るフィーナに、さらに体勢を低くしながら、じりじりと後退していたネコは――スキを見て逃げ出した。
「あ、こら――っ!」
叫んでも、伴魂は振り返ることなく逃げ続け、その日は帰ってこなかった。
異世界転生。
やっと要素が揃いました。
主要な転生者は出揃ってます。




