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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第四章 人語を介す伴魂
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52.国交とフィーナの立場 8


 次兄のディルクも、剣を媒体に用いる強力な魔法を習得し、様々な部門から一目置かれている存在だった。 


 なのに自分は――。


 セクルトでも騎士を育てる学び舎で好成績を残したものの、兄達二人に並ぶ特出した何かを持ち合わせていない。


 気にしていない風体を対外的に見せていたが、劣等感は、胸の奥底に抱き続けていた。


 他人に触れさせないことで保っていた矜持に、フィーナは踏み込んでくる。


 そこに「関わるな」と言っているのに、関わってくる。


 それがリーサスには我慢ならなかった。


 そうした思いの元、反射的にフィーナに告げたのだが。


 言葉はそれ以上、リーサスの口から出ることはなかった。


 ――と言うのも、ザイルが、リーサスが叫んだと同時に利き手である右手で、その口を激しい力でふさいだのだ。


 リーサスとフィーナ。


 二人のやり取りに水を差す形で、ザイルが介入した。


 リーサスとフィーナ、驚いた二人がザイルに目を向ける。


 そうした視線を理解しながら、ザイルはリーサスと向き合っていた。


 驚いて目を丸くするフィーナ、同じく、自身に起きた事象に驚いてリーサスは目を見張っている。口はザイルに塞がれているので、言葉を発することもできずにいた。


 驚いた表情の末弟を見て、ザイルは暗い笑みを浮かべていた。


「自分の怠慢を棚に上げて……的を射た助言を自ら排除する……?

 奢っているのはどちらか、それすらもわからないのか?」


「……え……?」


「待っ……っ!」


 自身がおかれた状況を理解しきれないリーサスに、ザイルが何をしようとしているのか、次兄のディルクがザイルの怒りを察して、慌てて長兄を止めようと声を上げた。


 しかしディルクの声は間に合わず、ザイルは口元を掴んだ末弟を打ち捨てるように放り投げる。


 リーサスも青年と呼ばれる年頃で、体躯も成人男性ほどの物量を有しているのだが、ザイルは人を人とも思わない所作をとった。


 ザイルがリーサスを簡単に投げ捨てる。


 油断はあったが――それを差し引いても、人を簡単に放り投げる筋力を、ザイルは有していた。


 投げ捨てられ、リーサスは地に座り込む。


 今現在、置かれた状況を理解できず、途方にくれて長兄を見上げた。


 戸惑いを滲ませて見上げる末弟を、長兄は侮蔑を含んだ眼差しで見下ろした。


「魔法が苦手だから、武芸の鍛錬に尽力していた――。そう、言っていたな?」


「……え……?」


 リーサスは未だ、ザイルの心境を理解できず、戸惑っている。


 座り込んだままのリーサスにザイルは眉を寄せて「いつまで座っている。さっさと立て」と吐き捨てた。


 リーサスは言われるまま、慌てて立ちあがったが、長兄の行為に困惑したままだ。


 リーサスと同じく、フィーナも戸惑っていたが――ドルジェで数年、ザイルと接してきた経験から、ザイルが猛った怒りを抱いているのは感じていた。


(めちゃくちゃ怒ってる……)


 機嫌が悪い時は幾度か目にしていたが、これほど怒っているザイルを見るのは初めてだ。


 フィーナがこの場から離れたい思いにかられたところで「――フィーナ」とザイルに名を呼ばれて、びくりと体がすくんでしまった。


「は、はいっ!」


硬盾デュスクは使えますか?」


「え?」


『この前、習ってたな』


「え? え? ええ??」


 尋ねたザイルに驚き、答えたマサトに驚くフィーナ。質問の意図を理解できず、ザイルとマサトにきょときょとと視線を向ける。


「そうですか。では――防いでください。

 ――リーサス。お前もな」


「な、何を――」


「兄上?」


 フィーナとリーサスがそれぞれ、疑問を口にしたが、ザイルはそれらに答えることなく、構わず行動に移していた。





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