51.国交とフィーナの立場 7
フィーナとしては良かれと思っての助言だ。
リーサスは貴族籍ながらの豊富な魔力を有しているし、ザイルの弟である。
少し助言をすれば、苦手だという魔法も、鍛練次第で無駄な魔力を使用せず、行使できるのではないかと思ったのだ。
前詞を唱えても呪文を唱えても、作用の片鱗さえ伺えない生徒を、フィーナはラナの友人である同学年生で見知っている。
指導をして欲しい。
請われたものの、フィーナには彼らに何を助言すればいいのかわからず、苦い思いを噛みしめた経験があった。
けれど。
リーサスの魔法の発動時の前詞、呪文、そして起きた魔法。
その流れの中で、フィーナも気付いたことがあった。
奢りなどなく、リーサスの助けになればと告げた言葉だった。
対して、リーサスはリーサスで、フィーナに忸怩たる思いを抱いていた。
魔法が苦手だと、リーサス自身、理解している。
その点に関して、一つ年下のアルフィード――そのアルフィードよりさらに六つ年下の少女に、助言を受けようとしているのだ。
それがリーサスには我慢ならなかった。
フィーナに対する言葉を聞いたカイルが、眉をつりあげて、リーサスに口を開こうとした。
カイルは、先の来客室でのやりとりから、鍛練場に到着してからもフィーナのすぐ後方に控えていた。
フィーナは「魔法を近くで見たいのだろう」と思っていたようだったが、カイルの本心としてはリーサスを牽制してのものだった。
フィーナと近しく接してきたカイルには、フィーナがリーサスに告げた言葉が、彼を思ってのことだと理解できた。
自分の経験が参考になればと、秘匿することなく助言するフィーナの心根を、カイルも理解していた。
そのフィーナを無下にするリーサスの言動が、カイルは我慢ならなかった。
そうして発言しようとするカイルの肩を、ザイルがつかんで押しとどめた。
ザイルの行動にカイルは顔をしかめたが――ザイルの表情と雰囲気を感じ取って、自身の行動を押しとどめた。
ザイルは、カイルがこれまで見知っているどの状態よりも、恐ろしい畏怖を体に纏っていた。
「殿下の御心をわずらわすまでもありません。
身内のことは身内で始末します」
「――大事にはするな」
カイルの言葉には返事をせず、冷たい笑みを口元に浮かべて、頭を下げるに留めていた。
ザイルの纏う雰囲気が余りにも冷徹で――冷酷で。
リーサスに対して怒りを覚えていたカイルが、リーサスの身を案じる立場となるほど、ザイルの怒りと侮蔑は顕著だった。
フィーナはリーサスの言葉を受けて、自分の立場を再認識していた。
ここはセクルトではないのだ。
近しい面々が側にいるから勘違いしてしまったが、リーサスは貴族籍の騎士だ。
ザイルとのこれまでのやりとりから、家族であるリーサスにも同じ態度をとってしまったが……罰せられてもおかしくない行為だった。
リーサスとは初対面に近しい関係だというのにだ。
ザイルもカイルもオリビアも。
アレックスもレオロードも、フィーナが身分の違いを感じることのない態度で接してくれている。
それが普通でないのだと理解していて、頭の片隅には常に置いていたつもりだったが……体に沁み入るほど覚悟はしていなかった。
フィーナは俯いて唇を引き締めると「申し訳ございません」とつぶやいた。
「出過ぎた真似を致しました。心証を害する行為であったこと、重ねてお詫び申し上げます」
簡易な挨拶を行い、謝罪の旨を明らかにする。
「――けれど」
謝罪の意志は明らかにした。謝った。
謝った上で、フィーナはどうしても伝えたかった。
「どうか今一度、魔法の鍛練方法を見直してみてください。
前詞を間違っても魔法が発動するのですから、能力的には――」
「あなたの助言など必要ないと言ったのが、わからないのですか?」
関わるな。触れるな。
そう牽制した部分に踏み込んでくるフィーナに、リーサスは反射的に告げていた。
魔法が苦手だと――長兄、次兄、二人を見てきてリーサスも自身の能力を理解している。
良くも悪くも注目を集めるベルーニア家の跡継ぎである長兄、ザイルは、幼いころから勉学も武術も高評価を得ていた。
リーサスの胸中に絡む話になってしまいました……。
私の中でのリーサスは、フィーナ同様、ぽやっとした子で、好きなことには周囲の迷惑にかまわず夢中になる。
……ってイメージだったんですが。
いや、根本は変わってないけれど。
う~ん。
年の経過も関連してるんですかね。
私の知らないところで。(苦笑)
すみません。もう少しリーサスに関する件、続きます。
リーサスと言うより、ベルーニアの長兄と末弟の絡みになります。