50.国交とフィーナの立場 6
見学者たちに目を向けると、それぞれ、異なる表情を浮かべていた。
オリビアとディルク、アルフィードにゼファーソン、アレックスにレオロードは「そんなものだろう」と想定内の表情を浮かべている。
カイルはなぜか思い切り眉をひそめている。――それがなぜかは、リーサスには判断できなかった。
傍らに視線を向けると、驚きに目を丸くしているフィーナ、呆れた吐息を漏らす彼女の伴魂。
そして。
長兄のザイルは驚きと呆れを内包した眼差しを向けていた。
他の面々と明らかに違う反応に、リーサスは戸惑う。
魔法は発動した。
なぜ、ザイルが非難めいた眼差しを向けるのか、理解できなかった。
「苦手なのは知っていたが……それでよく発動したものだ」
「え?」
「前詞……間違っても発動するんだ……」
『貴族籍の魔力の力技だな。あと伴魂が補正してた。前もって何の魔法使うか、伝えてたから手助けできたんだろ。突発的にしようとしたら、不発だったろうな』
ザイル、フィーナ、マサトが続けて告げる言葉に、リーサスはわけがわからず、途方に暮れていた。
魔法は発動したのだ。
間違いなどないはずだ。
未だ間違いに気付かない弟に、ザイルは嘆息した後、指摘する。
「水の女神。アクアリューネの名を奉じていなかったぞ」
「……あ……」
言われて、思い出す。
確かに、前詞に女神の名があったはずだ。
前詞を間違っていたのに魔法が発動した。リーサス自身、その事実に驚きを隠せない。
『ま、いいじゃん。おもしろいの見れたんだからさ。
考えてみると、そうだよな。前詞なしでも発動するんだから、前詞間違って発動することもあるよな。呪文さえ間違えなけりゃな。
考えもしなかったよ』
『けけけ。』と、マサトは意地悪く笑って、弟に苦言を呈そうとするザイルを諌めた。
「おもしろいとかじゃないでしょ」
腕の中で愉快げに笑うマサトを注意して、フィーナは「あの……」とリーサスに声をかけた。
「体、大丈夫ですか?」
「……体?」
「前詞間違ってたせいか……魔法の伝わり方、歪んでたように見えたから……。体、きつくないですか?」
「きつい……とかは……わかりませんが……。魔法を使用したあとは、ひどく疲れますが……それが普通なのでしょう?」
「普通……」
普通がどういったものか、フィーナにもわからない。
フィーナも魔法を鍛錬し始めたころは、初歩的な魔法でひどく疲れたものだ。
しかしそれも、鍛練を積み重ねたことによって、次第に疲労感が少なくなっていった。
マサトの指導を受け続けた今なら理解できる。
何事も、基礎と基本、理念と理解が重要なのだと。
「えっと……間違った理解と使用方法って、すごく体に負担がかかるんです。
魔力も余計に必要だから……だから……ええと……リーサス様……でしたっけ……?」
名前が合っているか、つぶやきながらザイルを見て確認する。
ザイルは渋面のまま、小さく頷いた。
「リーサス様が魔法を使って疲れるのなら、すごく効率の悪い方法をされているんです。
ですから――」
「失礼ですが。アルフィード様の妹君とのことですが、カイル殿下と同じ学年なら、魔法は学び始めたばかりでしょう?
魔法は苦手ですが、私はセクルトを卒業しています。
セクルトで一通りの教授を得ています。
初心者であるあなたが、少々魔法に長けているからと言って私に指導しようなど、どういった思いあがりですか」
「――え……」
向けられた敵意に溢れる言葉に、フィーナは硬直した。
フィーナの魔法とリーサスの魔法の違いを書いて。ってところだったんですが、なんか雲行きがあやしくなってます…。(汗)
リーサス。
もともと「我が道を行く」タイプだったんですけど。
…あれ? って、感じです…。




