48.国交とフィーナの立場 4
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騎士団がそれぞれ所有する屋外鍛練場は、王城から馬車で数十分かかる距離にあった。
王城そばに、広大な森が存在する。
その森を騎士団ごとに区画分けして、それぞれの鍛練場として使用していた。
賜った区画をどのように使用するかは、各騎士団に一任されている。
賜った森の大部分の木々を切り払って平地とし、開けた鍛練場とする騎士団もあれば、敢えて手を付けず、森の中という障害物が多い中での鍛練場とする騎士団もあった。
オリビアが所有する騎士団は新規に属し、オリビアが王女という立場をもってしても、古来から受け継いできた騎士団に太刀打ちできず、結果、森の最奥部をあてがわれていた。
オリビア自身、事情を理解しているのでその点は「仕方ない」と了承している。
同時に「屋外鍛練場を使う機会はそうそうない」との想いもあって、宛がわれた場所に不満はなかった。
実際、その土地をあてがわれて数年。屋外鍛練場に赴いたのは、年に数えるほどしかなかった。
新規就任した時も、鍛練場の出入り口付近を見た程度だ。
そのオリビア自身、ザイルの提言後、フィーナを伴って足を運んだ鍛練場の雰囲気に、驚きを隠せなかった。
出入り口さえ陰鬱としていた鍛練場は、今では上方から日差しが燦々と注ぎ、開けた様相となっている。
出入り口付近には検問所も設えてあり、容易に出入りが出来ないつくりとなっていた。
大きく変わった様相に、反射的にディルクに目を向けると、ディルクもここまで徹底されたものと思っていなかったのだろう。
「検問所の話は聞いていましたが――」
と、歯切れ悪く呟いている。
「誰から?」と尋ねようとしたオリビアだったが、それはやめた。
聞くまでもなく、心当たりは一人しかいなかった。
屋外鍛練場には、数台の馬車で赴いている。
その先頭にいたリーサスが、検問所の人物と親しげにやりとりをしたのち、後方に続く面々に「大丈夫。そのまま進んでください」と身ぶり手ぶりで伝えた。
リーサスに続いて馬車ごと奥に進むと、やがてコテージらしき建物にたどり着いた。
コテージの側には、開けた平地がある。そこに馬車をとめて、乗車していた人々は下車した。
コテージ側に広がる平地を目にして、オリビアは驚きを隠せなかった。
元々、屋外鍛練場に赴く機会はないと思って、管理も整備も放置していた。
なのに。
目の前に広がる景色は、以前目にしたものと違いすぎる。
視界に先は開けた平地が広がり、鍛練や訓練に使いやすい場所として、オリビアの目に映った。
頬を撫でるすがすがしい風を全身で感じつつ、オリビアは隣に立つディルクを見上げた。
オリビア同様、驚いた表情を浮かべるディルクを見て、彼もこの場の状況を知らなかったのだろうと想定する。
状況を見るに、リーサスは頻繁に足を運んでいたのだろう。
驚いた様子を見せない若年者の素行から、オリビアとディルクはそう読み取る。
リーサスが現状を知っていたのは理解できる。理解できるが。
「なぜ?」
うめくように呟いたオリビアの一言には、一言では言いきれない感情が内包されていた。
リーサスと同じく、ザイルも検問所の者と親しげに言葉を交わし、開けた平地にも驚く素振りをみせなかったのだ。
それは以前からこの場所の現状を知っていたからと思われる態度だった。
ザイルがオリビアの騎士団に所属していた時は、現状と異なっていたはずなのだが。