47.国交とフィーナの立場 3
オリビアの発言を聞いても、リーサスは納得できない部分があったのだろう。
助けを求めるように、兄であるディルクにすがる眼差しを向けた。
……ディルクに助けを求めること自体、間違いなのだが、リーサスは気付いていない。
ディルクはオリビアに忌憚なく接し、敬語を使用しないシンを、こころよく思っていないのだから。
弟の眼差しに気付いたディルクは、晴れやかな笑みをたたえて口を開いた。
「シン殿をオリビア様の騎士団から除名しよう。
いい機会だ。
本人も望んでいるのだし、時期が来たら退団すると公言しているのだから」
「そんな、兄上っ!」
焦るリーサスに、額を抑えたオリビアが「それは少し待って」と告げる。
「いずれ騎士団籍から、はずそうとは考えているけれど。
シンから得たいものが、私にもあるのよ。
そこはもう少し待って。
……リーサス。
あなたもわかったでしょう?
非難なり苦言なり呈するのは構わないけれど、あなた自身がそうした対象ときちんと向き合ってから行いなさい。
先ほどの言葉も、フィーナとマサト、一人と一伴魂と接する機会があれば、認識も違ったはずだから」
言われて、リーサスはしぶしぶオリビアの言葉を受け入れた。
そうしつつ、ちらりとフィーナに目を向ける。
自分より年下の少女。
これまでの話に何かしら反応することもなく、聞き役に徹している。
そうしたフィーナに訝しげな眼差しを向けて――。
そうした目で見ている最中、ふとフィーナがリーサスの方を見た。
フィーナがリーサスを見たこと自体、何の意味もない。
何気なく行った所作の中で、偶然目があってしまっただけだ。
ぎくりと体を強張らせるリーサスに対し、初めてリーサスと視線を合わせてフィーナは、きょとんと眼をまたたかせた。
そうした後、リーサスに小さく微笑んでから、オリビアやカイルなど、その時口を開いていた面々に視線を向けた。
「私はどうすればいいのですか?」
フィーナの言葉に、オリビアは腰をおろしている椅子の背もたれに――後方に寄りかかって嘆息した。
「現状維持でいきましょう。マサトに関して、アブルードに関して、見知ったことは全て口外しないように。
……それがどの範囲まで含まれるか。
前回の話で理解してくれているとは思うけれど」
最後に一言、オリビアが釘をさして、その場は散会することとなった。
椅子から立ち上がったフィーナを、ザイルが声をかけて呼び寄せる。
ザイルは同時に、リーサスも呼び寄せていた。
腕にマサトを抱いて、ザイルの元へ歩み寄るフィーナ、フィーナとマサトに対する警戒心を全身に纏うリーサス。
側に来た二人を見て、ザイルはフィーナに尋ねた。
「最近、魔法の鍛練は行っているのですか?」
「うん。カイル達も一緒だから、魔力底上げの基礎鍛練ばかりだけど。
……あれって、限界までさせるから、地味にキツくて……」
「あはは……」と力なく苦笑するフィーナに「そうですか」とザイルは答えて、リーサスに目を向けた。
「伴魂は側にいますか?」
「……今は、騎士団に置いていますが」
「そうですか」
答えて、ザイルはオリビアに顔を向ける。
ザイルとフィーナ、リーサスの動きを見ていたオリビアは「何があるのか」と室内に留まっていた。
オリビアだけではなく、室内に同席した面々全員、ザイルの言葉に聞き耳を立てている。
カイルに至っては、フィーナに苦言を呈したリーサスが、フィーナの側にいる点を案じて、フィーナの背後に控えていた。
ザイルはオリビアに口を開いた。
「騎士団の屋外鍛練場をお借りしてもよろしいでしょうか」
「なぜ?」
「『百聞は一見にしかず。』
フィーナの能力に関しては、実際、目にしたほうが理解できるかと」
「『ひゃく……』?」
ザイルが口にした、前半の言葉は、理解できなかったオリビアだったが、後半は理解でき、告げながらザイルが視線をリーサスに向けたのを見て、ザイルが何をしようとしているのか、漠然とながら理解した。
理解すると同時に、オリビア自身、その場に立ちあいたいと思った。
フィーナの能力は聞き及んでいるが、実際、目にしたことはなかったのだ。
「いいわ。私も同席するけれど」
オリビアの発言は、ザイルも想定していたようだった。
「構いませんよ」と告げるその口で、室内の面々をぐるりと見渡した。
「他に同席したい方がいらっしゃるのなら、どうぞ」
「え? な、なんでザイルがそんなこと言うの?
そんな話になるの?」
フィーナは戸惑っていたが、ザイルはマサトに目を向けて「かまいませんよね?」と確認している。
ザイルの考えにマサトも気付いて『仕方ない』と嘆息して了承した。
結果、室内にいる者全員が同席することとなった。
フィーナだけが、最後まで戸惑い続けていた。
PCの調子が悪く、更新時間、遅くなりました。
そして、ストック使い切りました……。
あわあわ。
最近、私ごと(入院中の家族に関して)で時間をとられてたので、ストック書けない日もあって。
今日はストック溜め、しとかないと。
あ。明日明後日は泊まりがけ研修だった……。(汗)