46.国交とフィーナの立場 2
『まあ、そんな話はしたな』
「それはいかがなものかと」
ザイルが告げる。
「なぜ」と聞くカイルにザイルは肩をすくめた。
「フィーナがカイル殿下の寵愛を受けていると周囲が思うでしょうから」
「何を馬鹿な」
「カイル殿下がそのようなおつもりではないと、近しい者ならわかっておりますよ。
しかし宣言を聞いただけの者はそうとらえます」
ザイルの発言に、ゼファーソンもオリビアも、同意する。
「フィーナはまだ学生です。
カイル殿下と学友として対等に接しており、見合った成績を有していることで十分な抑止力になりますよ。
寮の同室者は彼の大臣の御令嬢で、そのサリア嬢と親しい点も助けとなります」
「しかし――」
カイルはマサトに目を向けた。
カイルの言わんとしていることを察したマサトが、伸ばした尻尾を揺らめかして苦笑を浮かべる。
『わりぃ。あの時話した庇護は、心づもりの話なんだ。
何かあったときは、手助けしてほしいってな』
その点はカイルも了承した。
カイルとしては庇護を明らかにする覚悟をしていたのだろう。
周囲の反応を見て、それ以上、何も言わなかったが、物言いたげな表情を浮かべていた。
そうした状況を見ていたリーサスが、話がひと段落したのを見計らって「あの」と口を開いた。
「みなさん、フィーナ嬢の伴魂の話を鵜呑みにしているようですが、それは信じてもいいものなのですか?」
アブルードという他国に関係し、個人の話でなく、国と国との話になっているのに、話はフィーナの伴魂であるマサトからの情報しかない。なのに、同席する面々はマサトの話を信じている。
その状況が、リーサスにはにわかに信じがたいようだった。
リーサスとフィーナは、これまで接点がなかった。
アルフィードとリーサスは騎士団絡みで接していたが、フィーナがアルフィードの妹だからと言って、信頼が置けるかどうかは判断できないと、暗に含んだ物言いだった。
フィーナとリーサスは、先日、アールストーン校外学習の確認事項時が初対面の関係だ。
フィーナの伴魂が珍しいと聞き及んでいたが、マサトに関しては珍しい伴魂を目にして気持ちが高揚する域を超えている。
得体の知れない物への畏怖を感じているというのに、リーサス以外、そうした感情を持ち合わせていない状況も、理解しがたいものだった。
しかし。
リーサスの苦言はげんなりとしたオリビアの一言で一蹴された。
「リーサス。あなたが言えることではないでしょう?」
「え? オリビア様?」
「覚えていないの? シンを騎士団に引きこんだ時のやり取り。
シンは市井出身者で、本人も騎士団入隊を望んでいない。
なのにリーサス。
あなたの連日の願いで……私も誰しも、感覚が麻痺してしまったのよね。
通常、入隊となるはずがなかったのに、現在、籍を置いている。
そうした状況に導いたあなたが、フィーナとマサトに関して、とやかく言えるものではないわ」
「そ、それは――。しかしシン殿は、有益であったでしょう?」
「それは後日判明した事柄よ。採用するかしないかの段階では、私はよくわかっていなかったわ。
……流されてしまった苦言は、甘んじて受けるけれど。
マサトとフィーナに関しては、カイルを身を挺して助けた実績が伴っているわ。
自分の身を守れる場所を捨てて、カイルを助けてくれたのよ。
そうした心根を疑う理由がどこにあるの?」
オリビアの言葉に、ゼファーソンも頷いて肯定した。