45.国交とフィーナの立場
マサトが自身の事情を話してから二週間ほど後のこと。
マサトとフィーナは、マサトの事情を話した面々と共に、以前訪れた来客室に、再度、集まった。
声をかけたのはオリビアだ。
マサトが依頼していた件に関して話をと、設けた場だった。
揃った面々を目にして、オリビアが口を開いた。
内容は、アブルードとの国交に関することだ。
必要最低限の慶弔の場に書面を寄せることはあっても、式典には都合がつかないからと参加を見送り続け、ここ数十年、疎遠となっている。
完全に国交を絶ったわけではないのだが、貴族籍の面々の中でも、アブルードの国の名を聞いても、それが国の名とさえ認識できない者が多いと言う。
そうした関係にある国は、アブルードに限ったことではない。
他にもそうした国々はあるので、アブルードに関しては「距離的にも関係的にも遠い国」とされていた。
「正直。国交を絶っててくれた方がありがたかったんだけど……」
渋い表情でオリビアが呟く。
マサトの件、ひいては主であるフィーナを思っての発言だと、当事者である二人はすぐにわかったので「気にしないでください」『そこはそこ。これはこれ。話は別だろ』と、それぞれの思いを口にした。
「国同士の関係としては、正式な手続きを経て要請があれば、無下にはできないの。
その点は、わかって」
『この国とアブルードがどう言った関係か。そこを知りたかったんだ。
思ったより、早く知れてよかったよ。
状況を把握できれば、こっちも準備できるからな』
「準備って……」
『心配すんな。めちゃくちゃなことをするつもりはないから。防御策を準備するだけさ』
「防御策……」
困惑気味につぶやくオリビアに、マサトは苦笑する。
『だから心配すんなって。奇抜なことはしないから』
フィーナと彼女の伴魂であるマサトを見て、オリビアは嘆息した。
「事情が事情だから、表立ってフィーナを護衛の対象と出来ないのよね」
マサトに関する様々な件をつまびらかにしていない状態では、護らなければならない理由がない。
マサトの過去を明らかにしたとしても、護衛の対象とすると反発を受ける可能性もあった。
「アルと同じように、私の側仕えとすることも可能だけれど……」
歯切れ悪く、困った表情を浮かべるオリビアに、マサトが首を傾げた。
オリビアがそうした申し出をする可能性は考えていて、断ることを考えていたマサトとしては、言い淀むオリビアの反応の方が意外だった。
『そこを頼るつもりはなかったが……何か不都合があるのか?』
「フィーナがアルの妹で、セクルト貴院生だから。……と理由で、重用するのはおかしくない話なのだけれど……。
マサト。あなたが過去のことなり人語を介すことを除いても、誰の目から見ても、珍しい伴魂だから」
『ん? 珍しい伴魂だと都合が悪いのか?』
「私は既に、アルを側仕えとしているわ。
アルの伴魂も珍しい伴魂なのよ。
そのアルを側仕えとしている上に、妹だからと言って、フィーナまで側に置くと、それを良しとしない輩が出て来るでしょうね。
……兄上の近辺の方々が。
珍しい伴魂を有している者を召抱えるだけでも、人目を惹く行為だから。
騎士団を持っている、その上、珍しい伴魂所有者を次々と取り込んでいる――。何てことになると、反発されるのは目に見えているし、フィーナは兄上が召抱えるべきだ。……何て話になりかねないのが、怖いのよ」
『いっつも思うけど。めんどくせーな。王族も貴族も』
「その話ですが」
オリビアの話を聞いていたカイルが口を開いた。
「フィーナは、私の庇護の元にあるとしようと考えていました。
マサトが自身の事情を明かす条件として、私の庇護の元に置くと約束していたのです」
カイルの発言に、オリビアが「そうなのか」とマサトに目を向ける。