43.アルフィードの懸念【戒めの輪 5】
「言っていることが、わかるの……?」
驚くアルフィードに、マサトは小さく肩をすくめた。
『わかるやつはな。意識がしっかりしているヤツとは、やりとりできるよ』
「あ。カイルの伴魂としてたみたいなの、お姉ちゃんの伴魂ともしてるの?」
マサトの言葉から、フィーナも状況を把握したようだった。
驚いて、アルフィードは戸惑うばかりだ。
これまで、このようなこと、一度とたりしてなかったのだから。
そう告げると、マサトは苦笑する。
『人の言葉、話せる伴魂なんて、居なかったろ?』
――言われると、確かにそうだ。
『伴魂同士、会話できるヤツとなら、人に聞こえない声でやりとりはしてるんだよ。
……正直、まともに話ができるほど、意識がしっかりしてる伴魂は少ないんだが。
感情は感じ取れても、何を見て、何を考えて、何を思ったか。
会話できる伴魂は、ごく一部なんだ』
「みんな……こんな感じでは、ないの?」
アルフィードは、自身の伴魂とのやりとりが普通だと思っていた。
皆、人と会話するように、伴魂とも意識下で会話に近しいやり取りをしているものだと思っていた。
そう思っていた根底が覆されて、戸惑いを禁じえない。
アルフィードの言葉に、マサトは肩をすくめた。
『他の伴魂と主とのやり取りは、俺にもわからないが。
俺との接し方を見て、その伴魂と主とのやり取りを観察していた限りでは俺と会話できる伴魂は、主とも意識下の会話をしているようだな』
知らなかった事実を認識して、アルフィードは戸惑いながらも、自身の伴魂に目を向けた。
朱色の羽の伴魂は「ダメったらダメっ!!」と、羽を広げてピーピー威嚇している。
「どうして?」
声に出して、アルフィードは尋ねた。自然と行っていたことだった。
(――アルがそんなこと、する必要ないでしょう!? 危ないことは騎士団の方々や、そこの唐変木に任せとけばいいのっ!)
『お前な。俺にも聞こえてんだからな』
呻くマサトをちらりと見た後、アルフィードは自身の伴魂に問い掛けた。
「どうして? フィーナも鍛練しているのよ? どうして、私はだめなの?」
(――だって、危ないじゃない!)
「それはフィーナも同じよ」
(――違うわ! フィーナは自分が危険な立場になる可能性がある!
フィーナ自身が、そこの白いのを伴魂に選んだのだから、それは仕方ないことよ!
それは私もわかるわ!
だけどアルはそうじゃないでしょう!?
王女様や王子様が標的になることはあっても、アル自身がそうなる可能性は低いじゃない!
それなのに、アルが必要のない武芸を習って、危険な立場になる必要なんてない!
それに私、戦い方なんて知らないもの! そこの白い毛玉は経験してるから、主に危険が及んでもいろいろと対処できるだろうけど、私は人と争ったことなんてないから、臨機応変に対処なんてできない!
私の主はアルだけよ! アルが初めての主で、最後の主よ!
アルが鍛練を受ければ、そうした所を見られて、いいように使われる可能性があるわ!
そんなの嫌!
情けないけど、私、アルを――主を危険から守れる自信なんてないから!
だったら、危険な状況にならないように、必要以上のことはさせないわ!)
アルフィードの肩にとまっている伴魂は、肩にとまったまま、朱色の羽を広げてばたつかせている。
ばたつかせながら、ピーピー鳴いていた。
鳥の声を耳で聞きながら、伴魂の訴えを意識下で聞きながら。
アルフィードは自身の伴魂の想いに驚いて、声を失っていた。
伴魂として側にいるようになってから、喜怒哀楽の感情を意識下で感じつつ、時折、人と話すような会話を意識下でも交わしていた。
人との会話のような、意識下のやりとりは、それほど頻繁ではない。
アルフィードの中で自身の伴魂は、他の獣より少々知能が高いとしか考えていなかった。
その伴魂が、これほど雄弁に自分の思考を語れるとは思っていなかったし、知らなかった。
アルフィードの伴魂。
すみません。フィーナの寮の個室での冒頭に、情景説明時、書き忘れてます。
付け加えてます。(汗)
アルフィードの伴魂が長く語るのは、今回が初めてですね。