42.アルフィードの懸念【戒めの輪 4】
納得したもののすぐ「……あれ?」と首を傾げる。
「だったら……どうして、私、訓練受けてるの?」
『さっき言ったのは、あくまでも国同士での戦の場合だ。
単独で忍びこんだヤツに対抗するには、それ相応の武力が必要だろう?』
「あ。そっか」
「そっか。――って……。ちょっと待って。
それ、フィーナが身につけないといけないことなの?」
『うん? 何かおかしなこと言ったか?』
「自分の身は自分で護らないと……ねぇ?」
マサトとフィーナ、主と伴魂は、互いに顔を見合わせて『おかしなこと、言ってないよな?』「おかしなこと、言ってないよね?」と同意見であることを確認して、首を傾げている。
アルフィードは唖然とした。
確かに。
マサトとフィーナが言っていることに、おかしな点はない。
おかしくはないが――学生の立場であるフィーナが「自分の身は自分で護るために、魔法の鍛練、および武芸の鍛練を受けてます」との状況が、アルフィードからすれば、普通でないのだ。
マサトとフィーナが置かれている状況は、わかっている。
わかっているが、そこまで戦力を身につけなければならないことなのか。
何のために、国の兵がいるのか。
何のために、騎士団があるのか。
国の民を護るためではないのか。
フィーナとマサトが、そうした国力を頼りとしない心境が、アルフィードには理解できなかった。
「危険が及んだら……助けを求めることもできるでしょう?」
そう口にしたアルフィードだったが……言った自分自身が、助けを求めても対処できないこともあるのだと、身をもって経験している。
オリビアに刃を向けたオーロッド。
彼に対処しようとした時。
オリビアの側に護衛はなく、危険にさらされた――。
フィーナとマサトが鍛練するのは、不意を打たれた時に対処するためだ。
わかっている。
わかっているが――妹を思う感情として、過ぎた能力を身に着ける心配を抱いていた。
「そうだけど……。
急に来られたら、助けを呼ぶ時間もないから……」
フィーナはアルフィードが想定した通りの内容を口にする。
アルフィードもわかっている。
わかっているが、どうしても、心配が、先だってしまう。
「――そう、よね」
同意して、アルフィードは「だったら」とつぶやく。
「私も、マサトの鍛練、受けられないかしら」
フィーナも受けているのだ。
自分も不可能ではないと、アルフィードは思っていた。
それに今後のことを考えても、身につけておいて損はないだろうとも思えた。
そうだ。
フィーナと共に、自分も鍛練を受ければいいのだ。
そう意気込んだアルフィードだったが、予想に反して、マサトは『……ええぇぇ……』と気乗りしない、渋面を張り付けた。
やる気になっていたアルフィードとしては、マサトの反応に戸惑ってしまう。
「私は、ダメなの?」
カイル殿下も、彼の護衛の二人も、鍛練を受けているのに、なぜ。
困惑するアルフィードに、マサトはつと、視線を彼女の肩口に向けた。
『魔法ってのは、伴魂の助力も必要なんだが……』
「え?」
マサトの視線に促されて目を向けた先には、アルフィードの肩口に止まっている朱色の羽を抱く伴魂がいる。
マサトとフィーナとの会話に意識を集中させていたので、伴魂の声が聞こえにくかったが、ふと、気付いて自身の伴魂に意識を向けたアルフィードは、耳をつんざくかみきり声に、反射的に耳をふさいでいた。
(――ダメダメダメっっっ!! アルはそんなこと、覚えなくていいのっっ!)
「っつっ!」
鼓膜に痛みを覚えるほどの音量だった。
実際、耳から聞こえる声ではない。
意識下に送られてくる声なのだが、受ける側としては耳から聞いたと変わりない状況になるので、反射的に耳をふさいでしまう。
痛みを覚える音量に、アルフィードは顔をしかめた。
そうしながら、自身の伴魂を落ち着かせようと、言葉を探していた。
聞こえているのは、アルフィードだけだと思っていたのだが……。
『心配すんな。伴魂が協力してくれないと、魔法の鍛練はできねーよ』
アルフィードの伴魂をなだめるように、マサトが口を開く。
フィーナだけが一人、状況がわからず、きょときょととマサトとアルフィードを交互に見ていた。