41.アルフィードの懸念【戒めの輪 3】
告げるマサトに、アルフィードは気付いた事を口にした。
「アブルードで使用する魔法と、この国で使用する魔法って、どのように違うの?」
マサトの話からすると、アブルードは「イセカイテンセイシャ」を戦に利用しているという。
久しく戦を経験していない自国、加えて伴魂を戦の主流と考えていない我が国からすれば、アブルードがどのような戦い方をするのか、アルフィードには想像できなかった。
アルフィードの問いに、マサトはしばらく考え込んだ。
説明しようと数度、口を開こうとするが、うまく説明できないらしく、声なき口の開閉を数度繰り返した後、ため息をついて、説明を断念した。
『悪い。どう説明すればいいのか、わからない』
目を閉じて、力なく肩を落とすマサトに、アルフィードは緩く首を横に振った。
「気にしないで」
返事をしながら、マサトがアルフィードにもわかるように、説明をしようと言葉を選んでいたのは伺い知れた。
説明できないのは、自国とアブルード、それぞれの国の在り方が、根幹から違うためだと想像できた。
『どう説明すればいいのかはわからないが。
この国の魔法が――騎士団の面々や禁軍の輩が使用する魔法が、アブルードより数段、遅れをとっているのは確かだ』
そうした面もあって、マサトはフィーナの魔法を間近で体験したカイルの「魔法鍛練要請」を受け入れたのだという。
カイルに対する鍛練を直で見た、護衛騎士の二人からも同様の申し出があり、効率性を求めて『じゃあ、フィーナも一緒に』と、今日の鍛練となったのだと、マサトは話した。
「それほど、差があるの?」
生活で使用する魔法以外、武力を伴う魔法は貴族のものだと、アルフィードは思っている。
貴族ではない自分には関係ない分野だとも思っていた。
今日、鍛練所で見た訓練の痕跡から、フィーナ達が指導を受けている魔法が強力であると伺い知れる。
何となくわかるが――しかし、優秀だと言われる騎士の面々だったら、アブルードの戦力に劣らないのではとアルフィードは思っていた。
オリビアの側仕えであるアルフィードは、オリビアが受け持つ騎士団に出入りしている。そうした時、騎士の面々が鍛練する場も見ているので、そうした思いを抱いていた。
アルフィードの考えることを、マサトも察したようだ。
『確かに。突出したヤツもいるにはいるけどな。
全体的な所で言うと――小児校生と大人ぐらい、あるだろうよ』
「「え……」」
驚きの声は、アルフィードだけでなく、フィーナからも漏れ出た。
「それって……この国の騎士の人達が、アブルードの騎士の人に比べたら、小児校生レベルってこと?」
尋ねるフィーナに、マサトは『ううん……?』と首を傾げる。
『アブルードで言うとこの騎士と、この国で言うとこの騎士は、立場が違うから、比べようがないんだが……。
俺のアブルードでの主は、一般兵だった。一般兵も、ピンからキリまである。
俺の主は、一般兵の中でも上位に部類する立場ではあったな。
そうした立場の輩と比較すると、子供と大人くらいの差はあるだろうな。
だいたい、ここの国民。
伴魂の使い方、下手すぎるんだよ。
この戒めの輪にしたって、アブルードでは使ってるやつが多かったんだ。
この国でも同じだろうと思って受け入れたら、他にしてるやつ見かけなくて、驚いたよ。
それだけ、伴魂の力を制御せずに済んでるってことは、伴魂の魔力を使わずにいるってことなんだ』
「ああぁぁあああ。わけわかんなくなって来た」
話に付いていけず、フィーナは両手で頭を抱えている。
普段からマサトの指導を受けているフィーナがわからないことを、アルフィードが理解できるわけもなく、姉妹揃って困惑していた。
『とにかく。国の戦力を比べると、アブルードに遅れをとってるってことだ。
アブルードが近隣諸国を侵略しているからと言って、この国が危ないってわけじゃない。
幸い、アブルードからは遠く離れている。
遠い異国を攻めるには、いろいろと大変なんだよ』
ため息交じりに告げるマサトに「そうなんだ」とフィーナは納得した。