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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第四章 人語を介す伴魂
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39.アルフィードの懸念【戒めの輪】


          ◇◇       ◇◇


 フィーナにはセクルトの女子寮、もしくは貴院校の教室に赴けば会える。


 けれど、アルフィードはセクルトでフィーナを訪ねるのを避けていた。


 オリビア――王女の側仕えという立場を考慮したことと、アルフィードがセクルトに足を運ぶと、周囲がひそひそとさざめくのが苦手だった。


 オリビアの側仕えとして知られているからだろうと、周囲の潜めいた声をそう考えていたが「ドルジェの聖女」と呼ばれているとは、アルフィード本人は知らなかった。


 フィーナが「目立たず暮らしたい」と言っていたのも知っていた。


 だから余計、セクルトに関する事柄から距離を置くようにしていた。


 今回、そうも言ってられない事態だと思って、ドルジェに帰省した翌日の放課後。


 アルフィードはフィーナを訪ねたのだった。


 ――訪ねたのだが。


「いない?」


 教室にはすでに、フィーナの姿はなかった。


 一日の授業が終わって、そう時間がたっていないはずだが。


 クラスにいた生徒に行く先を尋ねたが、聞かれた生徒も行く先は知らなかった。


(寮に戻ったのかしら)


 思って、寮に足を向けたアルフィードに、背後から声がかかった。


「アルフィード様!」


 振り向くと、サリアが驚いた表情で駆けてくる。


 これまで、寮を除く貴院校内でアルフィードを見たことがなかったので、驚きも大きいようだった。


「どうかされました?」


 校外学習の事後確認、フィーナの伴魂が人語を操ると知った後である。


 フィーナの伴魂――マサトの過去をサリアは知らないが、これまでの経緯から、何かあったのではと思っているようだった。


「フィーナに、確認したいことがあって。

 教室に行ったけれど寮に戻ったみたいだから、そちらに行ってみるわ」


「え」


 アルフィードの言葉に、サリアは目をしばたたせた。


 そして少し考えて、遠慮がちに口をひらいた。


「……おそらく寮に戻ったのではないと思います」


「そうなの?」


 どこに行ったのか、心当たりがある風のサリアに、首をかしげてどこに行ったか教えてほしいと、暗に含んだ表情を浮かべる。


 アルフィードの仕草を見たサリアが、くすりと微笑んだ。


「やっぱり御姉妹ですね。フィーナと仕草がそっくり」


「……そうかしら」


「そうですよ」


 ――サリアの何気ない一言に、アルフィードの胸の奥がしくりと反応する。


 痛みなのか、悲しみなのか、喜びなのか、嬉しさなのか――。


 自分でもわからない感情に気付かないふりをして、続けたサリアの言葉を聞いていた。


「おそらく、魔法の鍛練所です」



          ◇◇        ◇◇



 アルフィードも教師の付き添いのもと、鍛練所が放課後使えるとは知っていた。


 知っていたが、使用するのは魔法の試験合格が危うい者だと思っていた。


 ――実際、フィーナが入学するまではそうだったのだが。


 鍛練所にいる面々を見て驚いた。


 フィーナは想定していたが、他にカイル、アレックス、レオロードも魔法の鍛練を行っている。


 その誰もが疲労困憊、彼らの伴魂も疲労を滲ませている。


「ちょ――、ちょっと待って……。もう、限界……」


 言いながら、地べたに座り込み、うつろな眼差しで呼吸を荒げているフィーナ。


 その隣では同じく、座り込んだカイルが、荒い呼吸を繰り返し、こちらはしゃべる事さえできないようだった。その傍らには、カイルの伴魂が、目を回して伏せっている。


 カイルの隣にはアレックス、レオロードが続き、彼らはそれぞれ大の字で地面に寝転がって、目を回している。


 そうした面々を前にして、白い伴魂――マサトは『けけけ』と凶悪な笑みを浮かべていた。


『限界? 限界ってなんだ?』


「だ――だから……もう無理って……」


『自分で思った限界は、ホントの限界じゃねーぞ?

 それをこえた先に、新しい世界が待っているんだ。

 さあ、行こう。新しい世界へ』


 告げるマサトは、どこか芝居じみた口調と身振りを加えて、フィーナ達に語りかける。


 ……が、フィーナ達としても、それらに付き合う気力もないほど、疲労は限界をこえていた。


 朦朧とする意識の中、フィーナがどうにか、マサトに返事をしている。


「何言ってんのか、わかんない……。

 マサト……気でも狂った……?」


『お前って、ちょいちょい失礼ワードぶっこんでくるよな』


「『失礼ワード』……? 『ぶっこむ』……?」


『あー。わかんなくていいから。限界なんだろ?

 それはわかったから。

 ……ま。今日はこれくらいにしとくか。

 来客みたいだし』


「らい、きゃく……?」


 つい、と顔を向けるマサトの視線を追うと、サリアの隣に驚いた表情を浮かべる姉、アルフィードが居た。



最後の方にある、マサトとフィーナのやりとり。

ああいう緩いやり取りが書いていて楽しいです。

もっと書く機会があればなぁ。

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