31.白い伴魂の事情【偽ニック遭遇時の状況】
中断を余儀なくされたカイルは「どこまで話したか」と考えた後、再度、同じことを口にした。
「偽ニックと遭遇した後。フィーナの魔法に助けられて、逃げることができました。
その際、フィーナが使用した魔法は、これまで聞いたことのないものでした」
そう話した後、カイルは、休憩所でニックが護衛騎士の名簿に名がないことを知り、フィーナを案じていると、光りに包まれたかと思うと、視界が開けた時には、目の前の景色ががらりと変わったと告げた。
――それが、カイルの伴魂が成した技だとマサトは言うが、それについてはカイルはこの場でも伏せていた。
とにかく、光りに包まれて、気付いた時には森の中にいて。
そうした時、ニックが数メートル先に居ることに気付いた。
側にフィーナの姿はない。
ニックの目的が、フィーナの伴魂強奪だと思っていたカイルは、フィーナの所在を問いただしたが――。
「ニックは好機と告げて、剣を抜きました」
『俺とフィーナは、ニックをやりすごして茂みに隠れていたんだ。
そこへ、なぜか突然カイルが出現するし、ニックはカイルを狙うし。
状況がわからなかったが、カイルを庇って、ニックと対峙することになった。
――って言っても、伴魂の俺は出来ること少ないから、そこはフィーナが踏ん張ってくれた』
名を上げられ、フィーナは「ひゃっ」と身を震わせて、目を瞬かせている。
そのフィーナをつと見て、マサトは言葉を続けた。
『ニックに付いていった時から、変な感じはしてたんだ。そこかしこに殺気だった気配はあるのに、どこへ向けられたものか、わからない。
潜んでいる輩も複数いるみたいだが、同時に動いてるもんで、把握しきれずにいた。
ニックは「伴魂欲しがってる人がいるから譲れ」と言うが気迫がない。
とりあえず、言われたことをこなそう――。そんなやる気のなさは感じていた。
そんなニックを煙に巻いて、隠れて、やりすごそうとしたところへ、何でかカイルが現れた。
カイルを見て、ニックはさっきまでのやる気のなさはどこへやら、殺気をみなぎらせて剣を抜いたんだ。
まずいと思って、対処したよ』
「その時、フィーナとマサトはいくつかの魔法を使用しました。
どれも高度な魔法と思われるもので――聞いたことのないものでした。
献身的な護衛と、フィーナの魔法によって、偽ニックを捕縛できたのですが――。
その際、偽ニックが自害したのです。
後は、休憩所に戻る道すがら、マサトとの話から、姉上を標的にする輩の話を聞きました。
休憩所に戻ると、姉上の護衛をしているはずのディルクが居たので、焦りました。
事情を話すと、姉上の元に駆けつけました」
そこで、カイルは口を閉ざして、オリビアに目を向ける。
無言ながら、弟の意図を察して、オリビアは嘆息した。
「こちらの状況を話せと言うことかしら。
私の方は、前に話した通りよ。
オーロッドの襲撃を受けて、シンとディルクの助けがあって、事なきを得たの」
「その際、何かありませんでしたか?」
「何か?」
「姉上を襲撃した以外、オーロッドの素行に、違和感を感じるところは――」
「――なかったと思うけど……」
言いながら、オリビアはディルクとアルフィードに目を向け――。
「――そう言えば……」と、アルフィードを見て、ふと思い至ったことをオリビアは口にした。
「アルが硬盾で守ってくれたんだけど……簡単に破られたのよね。
硬盾を無効化する魔法なんて、初めて見たわ」
硬盾は、騎士の使用頻度の高い魔法の一つだ。
腕や手の平に硬盾を出現させ、盾として剣戟を弾くものとして、よく使われていた。
アルフィードが硬盾を突発的に使用できたのも、騎士団に足を運んでいた折、その魔法をよく目にしていたからだ。
過去の振り返り場面が続きますが、当時、明かしていなかった状況説明です。
カイルとフィーナ、マサトしか知らなかった状況を、共有していきます。
……オリビアとザイル、「途中質問OK」にしてたら、話が全く進みませんでした。
ザイルが釘をさしてくれたおかげで、話が進みます。
書いてる途中、オリビアの質問は何回も挟みそうになりましたから。




