29.白い伴魂の事情【校外学習時の事実 魔法】
フィーナの様々な規格外のことは、校外学習事後の報告時の話から、彼女の白い伴魂が絡んでいるのではと、考えていた。
フィーナは小児校時代、伴魂強奪未遂を経験している。
そのため、オリビアはザイルを護衛として付けていたが(数か月後からは、ザイル本人の希望で、エルド家で薬草に関して、学ぶために住み込みとなり、結果、護衛として側に居続けることになったのだが)、フィーナと伴魂は自分たちで身を守ろうとしたのではないか。
市井の民に魔法の授業はない。
生活に必要な魔法は、親から子へ、または知り合いから知り合いへ伝えられていく。
セクルトで学ぶ魔法は、一人が数人に教授し、段階を経て、高度なものを学んでいく。
入学前に個人的な教授を経て、変な癖がついてしまうと、後々、生徒自身が苦労することとなる。そうした観点から、貴族籍の面々は、子供にセクルトに入る前に魔法の指導をしないのだ。
そうした点は、フィーナも、ラナを見て理解していた。
ラナは前詞を唱えずに点火を使えるが、逆に前詞を唱えてだとなかなか点火を使えない。
点火に限ったことで言えば、それでも構わないのだが、前詞を唱える風習がなかった村で育ったラナにとって、新たな魔法を取得する際、前詞の概念をなかなか理解できず、苦労している。
新しい魔法を、前詞を唱えず出来るようなら、それでも構わないのだが、さすがにそれは難しかった。
前詞は古代の人々が、魔法の構造を露わしたものでもあるのだ。
ちなみにフィーナは、その辺りはきちんと叩きこまれているので、前詞を唱えて成せと言われれば、それもできる。
フィーナの状況は、極めて特異なものだった。
通常、市井に魔法を教授できる者はいないのだから。
それも高度な魔法まで――他国の魔法まで。
基本もしっかり学び、応用も可能なほど、叩きこまれている。
ぼうぜんとするオリビアに、マサトは小さく肩をすくめた。
『身を守るためだ。仕方なかった』
「仕方なかったけど……ホントにきつかったです……」
あはは……。とフィーナは渇いた笑みを浮かべて、焦燥激しい、遠い目をしていた。
オリビアは次第に表情を厳しくして、今度はザイルに視線を向けた。
「ザイル――。これはどういうこと?」
名指しされたザイルは、小さく息をついて、オリビアに答える前に、マサトに目を向けた。
「この為に、私を呼んだのですか?」
『うんにゃ。王女様とザイルの話は、そっちはそっちでやってくれ。
――心配すんな。
今日、ザイルもこの場に呼んだのは、ずっと知りたがってたことを話すからだ。
別々に話すの面倒だから、聞いといた方がいいだろうって面々を呼んでもらってんだ』
「出来れば先に聞いておきたかったものですね……」
『悪いな。俺も先にザイルに話しとこうかとも思ったんだが。
何度も話すの、ホント、面倒なんだよ』
「私は何年も待たされて……。
ぽっと出の方々と同等の扱いですか」
皮肉に笑うザイルに、マサトは苦笑した。
『だから悪いって、本気で思ってるから。
その分の埋め合わせは、考えてるよ』
マサトの言葉に、ぴくり、とザイルの眉が動いた。
「私が満足できるものでしょうか?」
『自信はある』
ふふふ……。と二人して不敵な笑みを浮かべる様子に、周囲がたじろいでいる中。
二人のやり取りに慣れているフィーナが「もうっ!」と声を上げた。
「やめてよ、二人とも!
そんな悪だくみするみたいな会話!
みんなびっくりしてるじゃない!」
言われて、マサトとザイル、二人は周囲を見渡した後、互いに顔を見合わせた。
「『悪だくみ?』」
違うよな? と、二人して申し合わせている。
「私は違うってわかってるわよ!
だけどザイルにマサトっ!
私は知らないからね! 二人でどうにかしてよね!」
そう告げたフィーナに、ザイルは焦った様子を見せる。
「そんなフィーナ……。あなたでなければ誰が作ってくれるのです?」
「ああ、やっぱりっ!
私が作る前提になってるし!」
『俺、作れねーもん。道具使えねーし』
「だったら他のもので交渉してよ!」
『スイートポテトってのはどうだ? ちょうど芋の収穫時期だ』
「おおっ! これまでにないものですね!」
「ザイルっ! 料理は不器用なんだから諦めてよ!
ホント、私知らないから!」
『フィーナは興味ねーの?』
「う……っ! そ、そうじゃないけど、今、話す内容じゃないでしょう!?」
マサトとザイル……。
二人の会話になると、どちらも勝手に話し始めます……。
特にザイル。
書くのは楽しいし、楽なんだけど、話が長くなります……。
横道それるし。
楽だけれど、舵取りが大変です。




