26.フィーナの答え【フィーナの想い 4】
「だから大丈夫よ」
自信満々に告げるフィーナに、マサトは唖然とした。
言葉を失ってフィーナを見つめた後、不意にこみ上げる笑いを我慢できずに吹き出してしまった。
「どうしたの?」
怪訝な顔をするフィーナに、マサトはひとしきり笑った後『悪い』と謝って顔を上げた。
目の前が開けた、すがすがしさを感じていた。
思い悩んでいたことを、フィーナはいとも簡単に受け入れてくれた。
困難だと思えたことも――フィーナが告げると、本当に大丈夫なように思える。
マサトは常に、人を疑っていた。
疑う素振りを見せず、普通に接している中でも、信頼しきっておらず、心の奥底では常に疑う心を持っていた。
それはこれまでの――アブルードで生活した経験から、自身を守るために自然と身に付いたものだった。
だというのに、フィーナは――。
伴魂として仕える主は、目の前にあるありのままを受け止めて、受け入れる。
そこには何の打算もない。
自分を誇示することなく、ありのままを露呈しもする。
そうして対峙した人物が見せた姿を素直に受け止めて、信頼する。
信頼された側は――信頼を受けた側は。
無意識のうちに、その信頼に応えようと――フィーナを受け入れようとし、期待に応えたいと思ってしまうのだ。
それは。
フィーナの伴魂であるマサトも同様だった。
怪訝な面持で自分を見る主を見て、マサトは側にいたフィーナの肩口に、寄りかかるように額をつけた。
「どうかしたの?」
体調を気遣うフィーナに、マサトは肩口に額をつけたまま、ゆるく頭を横に振った。
『何でもない』
告げて――続く言葉を、マサトも覚悟を持って口にする。
『この場で、誓わせてくれ。
この先、何があっても、何が起こっても。
フィーナ・エルド。
命に代えても我が主を護り抜くと誓う。
我が灯がついえるまで。
主か我か。
その生命が続く限り――』
告げて、マサトはゆっくりと顔を上げてフィーナを見た。
フィーナにも言葉の意味はわかったのだろう。
眉をひそめた、戸惑いをにじませた表情を浮かべている。
「前から思ってたんだけど。
どうしてそう、たいそうな話にしたがるの?」
『俺なりのけじめだよ。感謝してる。
これからもよろしくな』
マサトの言葉に、フィーナもようやく頬を緩めた。
顔をほころばせたフィーナを確認して、マサトもにっと笑みを浮かべる。
『――ってことで、明日からの鍛練、頑張ってくれよ?』
「――え?」
『危険な状況だって、わかっただろ?
せめて、自分の身は自分で守らないとな。
今度からは自分だけじゃなく、側にいる人間も守らないといけないしな』
からからと楽しげに笑うマサトに、フィーナは冷や汗が滝のように流れるのを感じて焦っていた。
「そ――それはそうだけど……っ!
ちょっと待って。
校外学習の事後処理とか寮の事務とか相談受付とか……っ!
しなきゃいけないこと溜まってるから、それを片づけてからで――」
『時は金なり。時間は待ってくれない。
オーロッドが騎士に潜り込んでたんだ。
どこにアブルードの手の者が潜んでるか、わからないだろ?
そんな悠長なこと、言ってられるか』
「あああっ!
そう――そうなんだけど――っ!
サリアに任せっきりの件もあるから、いい加減、対処しないと雷が落ちるぅ~~~っ!」
『それはそっちの事情だ。
俺は関係ないから』
けけけ。
意地悪くほくそ笑むマサトに、焦るフィーナ。
数日間、ぎこちなさがあった二人の関係は、こうしてこれまで通りの日常に戻ったのだった。
フィーナの想い。
とりあえず、一区切りです。
伏線回収も一段落。
まだまだ、伏線張ってるところもあります。
大きな伏線も、まだ残ってます。




