25.フィーナの答え【フィーナの想い 3】
純粋に、驚いた。
フィーナは天真爛漫で、画策するなどできないと思っていたのだ。
それを、本人が言いだすとは思っていなかった。
「あの時、私の魔力が吸われたのはわかってた。
それでマサトに恩ができたのも、何となくはわかってた。
倒れてからもマサトは側に居たし、後で伴魂契約が成されたと知って。
……どう、言えばいいのか、わからないけど。
「良かった」……って……思った」
『良かった……?』
「マサトの体調が回復して良かったって言うのが一つ。
……マサトが、伴魂となった事が、残りのもう一つ。
解除する方法がわからないって、お姉ちゃんが言ってたでしょ?
お姉ちゃんたちは心配してたけど、私は逆によかったって思った。
その時のマサトの気持ちはわからないけど……私を怖がっていないって漠然とわかっていたの。
少しでも受け入れてくれるのなら。
そうした伴魂を手放したくなかった。
綺麗で、抱き心地のいい、ふわふわの毛並みだったし。
こんな子が伴魂になってくれたら。
……って。
……これって、私のわがままでしょ?」
ぎこちない苦笑いを浮かべるフィーナに、マサトは反射的に首を横に振っていた。
『わがままなものか。自分が危険な目にあったんだ。当然の権利だ』
「そう、かな?」
『フィーナが助けてくれたことに比べれば、些細な願いだろ』
対価は己の生命。
意図せずとはいえ、生命を脅かされるほどの危険にさらされたのだ。
生命の対価として望まれたのは、請求を受ける側も利となる内容だ。
マサトとしても「渡りに舟」の状況だったのだ。
……あくまでも、これまではの話だが。
「だったら。最後まで私の側にいてよ」
『フィーナ……』
「マサト以外の伴魂なんて考えられない。
また伴魂を契約だなんて、できない。
困ってることがあったら、一緒に考えるから。
協力するから。
だから……契約を解除するなんて言わないで」
この広場に着いてから話を始めるまで――話し始めた当初。
フィーナはぎこちないながらも笑みを浮かべていた。
無理に笑おうとしていた。
しかし今は、いつ泣きだしてもおかしくないほど顔を歪ませ、唇が震えていた。
欄干に乗せた手はきつく握り締められ、小刻みに震えている。
マサトはなだめるように、口を開いた。
『今、答えを出さなくていいんだ。
よく考えてみろ。
事と次第によっては、あらぬ罪を着せられてお尋ね者になる可能性だってあるんだぞ?』
「わかってる」
『俺とフィーナだけじゃない。
フィーナの両親や姉ちゃんまで、捕まる危険があるんだぞ?』
「その時は一緒に逃げるもの。
お姉ちゃんはどうするか――オリビア様の側に残るかどうか、わからないけど――けど、被害を受けないように、皆に協力してもらうから」
『みんな?』
「オリビア様とか、カイル、サリアとか。
ザイルはついてくるって言いそうだけど……」
『――助けてくれると、思うのか?』
「助けてくれる。
表立って動けないところはあるだろうけど、私、悪いこと、してないもの。
マサトもこの国に害を成すことはしないって、わかってる人たちだから。
たとえ解決する方法がなくって、何かしらの手助けはしてくれる」
マサトは声を失った。
フィーナの言っていることはわからなくもないが……なぜ、関わりある人物が手助けしてくれると断言できるのか、理解できなかった。
『なぜ……そう思えるんだ?』
全幅の信頼を置けるのか。
尋ねるマサトに、フィーナは目をしばたたせた。
「そう思うから。信頼してる」
理由など必要ない。
フィーナが信頼していて、相手もそれに答えてくれる者たちだと考えているのだろう。
第一章の、伴魂がなかなか取得できなかった時のフィーナの想いが、ここに繋がっています。
そしてフィーナの、伴魂に関すること、これからに関することの決断でした。




