21.告白【マサトの過去 4】
「契約を、解除……?」
呟いて、フィーナの鼓動は一層早まった。
緊張で体が強張っている。
なぜ、今、その話になるのか。
なぜ、伴魂契約を解除するなどの話になるのか。
今日はマサトの説明を聞くだけではなかったのか……?
「……解除、したいの……?」
うわごとのようにつぶやくフィーナに、マサトはしばらく逡巡した後、目を閉じて口を開いた。
『その方がいいと、思ってる』
――息が止まりそうになる。
契約解除――伴魂がいない生活――新たな伴魂を取得しなければ――。
幼い時分、なかなか伴魂を取得できなかった頃の記憶が甦って、フィーナは不安に駆りたてられた。
無理だと思った。
これから新たに伴魂を取得するなど、無理だ。
「私が、イヤになった……?」
声が震えた。
涙声のフィーナに、マサトがハッとして目を開き、言葉を続ける。
『そうじゃない。そうじゃないが……。
このままだと――フィーナが危ない目にあう可能性があるんだ。
――偽ニックと……昔、この森で会った奴。
どちらもおそらく、アブルードの手の者だ。
……相手は誰かわからなくても、二人の共通する点には、気付いてただろ?』
「………………」
言われて、フィーナは唇を引き締めて、小さく頷いた。
……気付いてはいた。
加えて、マサトから指導を受けている魔法のほとんどが、彼らが唱えたものと似ているとも感じていた。彼らとマサトが、何かしらの共通する点があるのではないか、とも。
気付いていたが、考えたくなかった。
あえて考えないようにしていた。
『フィーナと伴魂契約を交わしてしまったのは、偶然だったが……悪いが、利用させてもらった。
無契約でいるより、誰かと契約してた方が、気配が紛れて見つかりにくいんだ。
一人でもどうにかできるようになったら、契約を解くつもりだったんだが――ずるずると今まで伸ばしてしまった』
森での襲撃以降、気をつけていたものの、アブルードからの動きはなかった。
風の噂で、国内が慌ただしいと聞こえていたので、国外への逃亡者一人に、時間と資金を割く余裕などないのだろうと思っていた。
国内がごたごたしているのを変わらず聞いていたので、何かしら動くとは思っていなかったのだが――。
『まさか、この国の中枢部に関係してくるとは思わなかった』
偽ニック然り。
フィーナは聞いていなかったが、オーロッドもアブルードの手の者だろうとマサトは告げる。
「オーロッドって人も? どうして、そう思うの?」
『一口に魔法って言っても、種類によって波長が違うんだよ。
アブルードで使う魔法は、この国で感じたことのない波長だからな。
場数踏めば何となく、わかることなんだが……王女様のテントにたどり着いた時、波長でわかった』
「そういえば……。オリビア様のところに行ったはずなのに、話に出て来なかったね」
『下手に動けなかったんだよ。アブルードが関わってるなら、俺が行くと、親しい関係と勘違いされて、危険が増す可能性が高かったからな。
ディルクが居るから大丈夫と思ってたんだが――席、はずしてるとは思わなかった』
「でも……おかしくない?
アブルートから逃げたマサトを狙うならわかるけど……どうしてオリビア様を?」
『そこがわからないんだよな……』
マサトも渋面で息をつく。
昔、フィーナが襲われた経緯にはこうした事情がありました。
……ってことでいくつか伏線回収(説明)。
短いですが、きりのいいところまで。




