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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第四章 人語を介す伴魂
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20.告白【マサトの過去 3】


 フィーナに話さずにいた妹の存在。意識下で送った情景は、音を省いたものだった。


 ――ただ。


 無意識のうちに送ってしまった最後の景色だけは、声を聞き取ろうと幾度となく振り返っていたので、フィーナにも同じものを見せてしまった。


 その情景の中で、何も知らないフィーナが、妹の声を聞き取ったのだ。


 確かなものだとマサトは確信していた。


 マサト自身はどうしても、実際体験した全身の痛みと意識に引きずられて、聞こえていたはずの声を聞き取れなかったのだろう。


 フィーナが落ちついてから、マサトは話を続けた。


 フィーナが、マサトが「異世界」「転生者」である認識を持ったのを確認して、口を開いた。


『アブルード……って国を、知ってるか?』


「アブルード?」


 フィーナは丸太を背もたれにして、地面に腰をおろしていた。


 ザイルが常備用の箱を置いているので、そこから敷物を借りている。


 ザイルはここで過ごす際の小道具を数点、備え置いていた。


 マサトはフィーナの側で膝の側に、同じ敷物の上に座っていた。


「聞いたことあるような……ないような……」


「うーん」と考え込むフィーナに『知らなくてもいいんだが』と呟いて、マサトは言葉を続ける。


『この国とは国交が断たれてるみたいだからな。知らなくて当然と言えば当然だ。

 俺がこの世界で意識を持った時。その国に居たんだ。

 この国で言う伴魂として――呼び寄せられたんだ』


 おそらくそこは、召喚なりを行う特別な場所だったのだろう。


 石畳の四方の部屋に円陣があって、壁の側に鏡が備え付けてあった。


 鏡は、自身の姿を理解させるために。


『異世界の人間を伴魂として召喚すると、言っていた』


「人間を?」


 驚くフィーナに、マサトが頷く。


『後になって考えると、それも眉つばモノなんだがな。

 どうやら、異世界の人間がこの世界で生を受けると、人間ではなく動物に生まれ変わるようなんだ。

 転生者らしき動物に術をかけると、反作用か何かで、過去の記憶がよみがえるらしいんだ。

 ……俺はそれをこっちに生まれて幼いころにされたから、最初の頃から認識はあったんだ』


「どうして、そんなこと、するの?」


 信じられないというフィーナに、マサトはため息を落とす。


『異世界の知識が欲しいんだと』


「知識――」


『高度な知識があれば、それだけで強みになる。

 あと――異世界転生者は、魔力が高い』


「あ――」


 様々なことが、フィーナの中で符合した。


 なぜ魔力が強いのか、なぜ博識なのか――。


 それからマサトは、要所要所をフィーナに話した。


 過去の記憶はあっても、この世界では何も知らない赤子同然だったこと。


 子飼い同然で、アブルードに使われていたこと。


 魔法の知識もアブルードで学び、時には戦場にも駆り出された。


『何年かすると、さすがに俺もおかしいと思って、従うふりして裏でいろいろ調べたよ。

 それで現実と聞かされてたことの違いを知ったんだ。

 国を護るためと、大義名分掲げた戦も、蓋を開ければ単なる侵略だ。

 戦で圧勝してたのも、異世界の知識のおかげってのも、結構あった。

 ――ああ、俺だけの知識じゃないけどな。

 俺のいた世界とはまた別の世界にいたやつも、結構いたよ』


 そうしたマサトを、憂いている人間もいた。


 それがこの国で言う伴魂の主にあたる、者だった。


 伴魂が人との関係を契約で縛られるように、契約を交わす。


 そして――国とも。


 生きるために、衣食住の庇護を受けるために、マサトには必要なことだった。


『従うふりしつつ、裏でこそこそ動いてた。

 権力に任せた、暴虐武人なことする貴族も多くてな。

 目に余ったんだ。

 そんな奴らも、俺のような転生者には手を出せなかった。

 ……まあ、それも長く続かなくて、ばれちまったんだけどな』


 従わなければ、厄災でしかない。


 立場的に危なくなったところを助けてくれたのが、この国では伴魂の主にあたる宿人レイブラント、リージェだった。


「レイ、ブラント――……」


 その言葉に、フィーナの鼓動は、どきりと一気に高鳴った。


 覚えているその言葉は。


 いつ、聞いたのかは――。


『命をかけて、俺との契約も――国との契約も、破棄してくれたんだ。

 そうして俺はアブルードから逃げ出してこの国にたどり着いて――。

 ――……フィーナ。

 お前が俺を助けてくれた』


 ざっと風が流れた。


 目を丸くしてマサトを見つめるフィーナ。


 マサトもフィーナを見つめている。


 思い返せば――そうだ。


 今でこそ、憎まれ口をたたくほど元気になっているが。


 裏庭で見つけた時は、魔力が枯渇して飢餓状態だった。


 そのような状態になるまで、逃げてきたということか。


『あの時は、本当にヤバかったんだ。身動きとれないほど魔力が枯渇していた。

 それで、普段だったら絶対手を出さないような子供から――フィーナから、魔力を吸い取ってしまった。

 もともと、フィーナは魔力が少なかったって言うのに。

 そのせいで、フィーナの命を危険にさらした――。

 あの時は本当にすまなかった』


 深く頭を下げて謝罪するマサトに、フィーナは慌てた。


「やめてよ。死にかけてたんだからしょうがないよ」


『それでフィーナも死にかけたんだぞ?』


「うぁ……。やっぱりそういう状態だったの?」


 今となっては過去のことだが、体調がきつかった記憶があるため、フィーナはぞっとした。


『あのまま、何もしなければな。

 吸いすぎて、慌てて少しだけこっちから供給して、どうにか大丈夫だったが。

 ――それが、伴魂としての契約となったんだ』


「――え……?」


 さらりと。


 唐突に重要なことを言ってのけるから、フィーナは思考がついていけない。


 そんなフィーナを尻目に、マサトは言葉を続けた。


『この国での契約の方法はよくわからないが、用は主と伴魂が魔力のやりとりをするってことだ。

 紙面を介せば、紙面で契約破棄できる。

 紙面を介さなければ、互いの同意で解除できる。

 伴魂との魔力のやり取りは、この国ではあまりしてないみたいだし、伴魂も獣の知性しかないのが大半だから、紙面を介した契約以外、浸透してないんだろうな。

 ――解除の方法がわからないと言っていたが、俺とフィーナ、互いに解除に同意して魔力をやりとりすれば、解除できる』


 マサトはそこで一度、言葉を切った。


 声を失って、呆然としているフィーナをしばらく眺めた後、静かに、口を開いた。


『――契約、解除するか?』


 



やっと書けました~~~!

白い伴魂、マサトの、異世界に来てからの過去です。

書き始めた当初から考えていた内容です。

マサト主体に書くと、この辺りの説明も難しかったのです。

説明ばかりになったので。

ちょっとだけ伏線回収できたかな?

伏線回収。もう少し続きます。

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