表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第四章 人語を介す伴魂
146/754

19.告白【マサトの過去 2】


 馴染みのない服装に身を包む人々、人家と思しき家々の連なり、親しげに話す人々。口は動いているが声は聞こえない。


 目の前の光景は人から見たものなのだと、フィーナは漠然と感じた。


 これがマサトが目にしてきた風景――。


 家の中と思しき場所、四角い板の中で小さな人が話して動いて、目まぐるしく画像が切り替わっていく。


 食卓に並ぶ食事。


 ――サンドイッチ。


 見覚えのあるそれを手にとって、頬張りながら焦っている少女。年の頃は姉の、アルフィードほどだろうか。


 黒髪を頬の辺りで切りそろえている。


 黒の瞳。いたずらっぽく、おどけて笑う様子は親しい仲なのだろうと推測できた。


 そして――急に眩しい光が視界を覆ったかと思った瞬間。


 身の丈より大きな白い、箱状の物体が速い速度で近づいてきて――。


「――――っ!?」


『フィーナっ!』


 体を襲う激しい衝撃に、フィーナは平衡感覚を失って倒れそうになった。


 寸前、意識下の映像が途切れて、現実へと引き戻される。


 反射的に目を開けると、座っていた丸太から、崩れ落ちるように倒れるところだった。


 膝と手をついて、頭から地面に倒れ込むのを防ぐフィーナ。


 焦ったマサトがフィーナの側へと駆けよる。


『悪い――。何度も考えている風景だったから、思い出そうとした時、出てしまったみたいだ』


『大丈夫か』と体調を伺う自身の伴魂を、フィーナは全身が気だるさに包まれるのを感じつつ、ゆるりとマサトに目を向けた。


 全身、冷や汗で濡れている。


 実際体験していないとはいえ、体験した者の感覚を再現されて、フィーナは全身の強張りと、傷のない全身の痛みを感じていた。


 ――おそらく。


 あれが、マサトの異世界での最後の記憶なのだろう。


 話を聞いた当初は「転生」の意味も「異世界」の存在も理解できなかったフィーナだったが、一万の言葉で説明されるより、短い情景でマサトの言葉を理解した。


 閉じた瞼の裏に広がった情景は、想像にしては色彩豊かで、臨場感に溢れていた。細部もしっかりと形を成していた。


 視線の先に登場した人々も然り。


 十人十色の人々は想像で得たものとは、到底思えなかった。


 見姿も、交わされるやりとりも。


 フィーナは、全身を包む気だるさと、最後に伴魂が見た風景に意識を奪われていた。


 熱に浮かされる心地で、マサトに目をやる。


 心配そうに、自分を見る伴魂。


(私の、伴魂――)


 魂の伴侶。


 伴魂は人でないはずなのだが――。


 見えた景色は、人として過ごした情景だと思えた。


 意識下で流れた風景を――全身を襲った衝撃の後、微かに聞こえた言葉を、フィーナは自分でも気付かないうちに呟いていた。


「――おにい、ちゃん……?」


(――お兄ちゃんっ!)


 薄れゆく意識の中、泣き叫ぶ声が聞こえていた。


(しっかりして――目を開けて――やだ――お兄ちゃん、死んじゃヤダ……!)


 朦朧としながら、微かに聞こえた声に、マサトは安堵していた……。


 意識下で流れた情景から聞こえた声。


 声は、サンドイッチをほおばった、黒髪の女性を思い起こさせた。


 ――彼女が、マサトの妹なのだろう。


 フィーナの呟きを聞いて、マサトは驚きに目を見張った。


 フィーナが伴魂に向ける言葉とは思えないし、状況的に意識下に送った情景が影響しているのだろうと思える。


 なぜ、と思いつつ、うわごとのように、声が漏れていた。


『……聞こえた、のか……?』


 マサトの問いに、フィーナはゆっくりと頷いた。


 先ほどの、情景の中で。


 端的な記憶の中で。


 何度思い返しても――安否の確認を取りたいと、切実に願いつつ、何度も思い返した記憶の中に。


 切望し続けた答えを、今、この時得られたのだ。


 車にかれそうになったのは妹で、それを自分が――マサトが反射的に庇って。


 助けられたのか、間に合わず、共に怪我を負ったのか――致命傷だったのか。


 ずっと気になっていた。


 過去の記憶を有していても、異なる世界から確認する術もなく、手掛かりは自分の最後の記憶だけ。


 フィーナが声を聞いたのなら、助かったと言うことだろう。


『……そうか……よかった……』


 積年の願いがかなったマサトは、感慨深く息をついた。




マサトの異世界での過去です。

この辺りは連載当初から考えてました。

(どう明かすかは決めていませんでしたが)

これから話が急展開していきます。

伏線回収、始まりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ