18.告白【マサトの過去】
「……巻き込んだ?」
自身の伴魂が告げた言葉を反芻しながら、フィーナは首をかしげた。
何をもって巻き込んだというのか、わからなかったのだ。
しばらくして顔を上げたマサトは、それから話しを進めた。
――それはフィーナが初めて聞くものだった。
『何から説明すればいいのか、俺もわからないんだが――。
とにかく、これが大前提だ。
俺は異世界転生者で、過去の記憶を有している』
生真面目な顔で告げるマサトだったが――案の定、フィーナは怪訝な面持で首を傾げていた。
「イセカイ、テンセイシャ――?
……って何?」
『やっぱ、そう思うよなぁぁぁあああ』
フィーナの反応はマサトも想定内だったのだろう。
盛大にため息をついて、説明に苦慮していた。
『過去の記憶が――生まれ変わる前の記憶があるっていうのは、何となく想像できるか?』
「それは何となく……。けど、そういうのって、あるの?」
『あるらしい。俺がそうだし。よくあるの稀なのかは、俺もわからんが。
――それでだ。
その過去の記憶が、異世界で生きていた俺の記憶なんだよ』
「えっと……。……イセカイって?」
『この世界とは違う世界のことだ』
「この世界とは違う?」
『あー……。
俺の前の世界には、この世界で使うような魔法はなかった。
伴魂もいないし、魔力っていう概念もなかった』
「え!? そうなの!?」
反射的にそう告げながら、フィーナはその世界を想像していた。
魔法も使えない。
伴魂もいない――。
「――めちゃくちゃ不便そう……」
火をおこすのにも魔法が使えないとしたら。
魔法を使わず、火を起こしてみようという授業を、小児校で経験したフィーナは、その労力を考えてげんなりとした。
思ったことを口にしたフィーナに、マサトは苦笑した。
『それがそうでもないんだ。
魔法がない代わりに、人の技術が発展してるから、向こうの方が格段に便利だ。
火も魔力なしでも起こせるし、同じ火加減を持続させることだって可能だ。
明かりも魔法を使えなくてもあるし、誰でも簡単に使っている。
日が落ちても、街――村中、明るいところだってある。
家の中の明かりだけじゃなく、外にもついてるから』
「え? どうして明かりを家の外につける必要があるの?」
『人が歩く道を照らすために』
「夜、外に出て歩くの?」
その行為自体、フィーナには信じがたい。
夜は街道を歩いてはならない。
村や町の門扉も締まるし、野宿するなら決めた場所から離れないのが鉄則だ。
『根底から違うんだよなぁ……』
ため息を落としつつ、マサトは付け加えた。
『客の目を引くようにってのもある。
日が沈んでも、店は空いてるからな。
昼も夜も。店が閉まることなく、ずっと開店している店ってのもあるんだ』
「え? ええ?
夜も店を開けるって――。
どうして? わけわかんない」
混乱を見せるフィーナに、マサトはどう説明すれば伝わるか、考えあぐねいていた。
わからなくても仕方ない。
前世の世界がどういったものか、わからなくても――本当の意味で理解してくれなくても。
自分がどうした存在なのかは、理解して欲しかった。
考えあぐねいていたマサトだったが、ふと思い至って、フィーナに声をかけた。
『目を閉じてくれ。
意識下で話すように、思ってる映像を送ってみるから』
「エイゾウ……?」
『とにかく、目を閉じろ』
急かされて、フィーナは言われるまま目を閉じた。
意識下で話をする時のように身構えていたのだが――送られてきたのは、多大な情報量を含んだ動く風景だった。
マサトの過去に関してです。
異世界。
説明に苦慮してます。
この辺りが、マサト主体の話にできなかった理由でもあります。
異世界での過去の話。もう少し続きます。