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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第四章 人語を介す伴魂
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17.告白【ドルジェ村で】


        ◇◇         ◇◇


 マサトが名を上げた面々を、オリビアとカイルが吟味し、都合が付く日の調整を行った。


 白い伴魂から話しがあると、カイル伝いに聞いたオリビアは、不思議そうにしていたが、要望を聞きいれた。


 最優先事項として強制的に呼び集める方策もあったのだが、それはフィーナとマサトが「悪いから」と辞退したので、それぞれの都合を聞いて、日取りを決めることになったのだった。


 召集日は同席する人の関係で、週をまたいだ次の日に決まった。


 召集日まで時間が出来た関係で、フィーナと伴魂のマサトは、ドルジェに一度帰省することにした。


 校外学習の準備、その後の処理関係で、ドルジェに戻るのは一月ぶりになる。


 それまで休みのたびに帰省していたフィーナにとって、久しぶりの我が家だった。


 リオンとロア、両親二人も、久しぶりに帰省したフィーナを破顔して迎えた。


 ザイルも以前と変わらず、両親と共に店をきりもりしている。


「独特だ」と言っていた両親が揃える薬草にも、だいぶ詳しくなっていた。商いの戦力として頼りになると、リオンもロアもザイルを褒めていた。


 初日は家の薬店の手伝いをしながら過ごし、久々の母の料理を堪能し、虫の音が近しく聞こえる寝床で熟睡して、実家を満喫した。


 アルフィードは所用で今回は戻れないのだと言う。校外学習前には帰省していたらしい。


 休日の二日目。


 午後には城への馬車に乗らなければならないため、実家で過ごす時間も限られている。


 二日目の午前中、フィーナは伴魂を腕に抱いて、以前、魔法の鍛練を行っていた森の広場に赴いていた。


 両親とザイルには、久しぶりに森で薬草を探してみたいと話している。


 両親もザイルも、特段、不審に思うことなく、フィーナの提言を受け入れた。


 ――それは。


 白い伴魂――マサトが、ドルジェに帰省する際、フィーナに頼んでいたことだった。


『二日目。二人で話せる時間をくれないか』


 カイルと話していた時分の、マサトに関する話をするのだろうと、鈍いフィーナでも察しがついた。


 ドルジェで話そうとするのは、話が漏れないよう、気遣ってのことだろう。


「ドルジェで話すなら、ザイルも一緒でいいんじゃない?」


 そう提案したフィーナに、マサトは緩く頭を横に振った。


『ザイルは後でいい。

 ――フィーナ。二人きりで話がしたいんだ』


 静かな自身の伴魂の声音に、フィーナも少々、体が緊張するのを感じながら「……いいけど……」と戸惑い気味に返事をした。


 これまで共に過ごした時間から、フィーナは伴魂とは主従関係と別なところで、互いに気を使わずに済む関係だと思っていた。


 血縁者とも違う。


 友人とも違う。


 恋仲のような、甘い感情を持ち合わせる仲では、もちろんない。


 自身の伴魂――マサトとの関係を、どう説明すればいいのかと、フィーナにはわからなかった。


 伴魂――魂の伴侶。


 確かに、そうした関係ではあるのだが、世間一般的な伴魂とは違うと思う。


 時にはケンカもするけれど、お互いに相手を「理解者」と考えている。


 気負いなく接してきたマサトの改まった物言いに、フィーナも我知れず、身構えてしまうのだった。


 休日、二日目の午前中。


 約束通り、フィーナはマサトを連れて、以前、魔法の鍛錬で使用していた森の奥の広場にたどり着いた。


 木々の枝葉で造られる緑の天井から、開けた、爽やかな青空の天井へと景色が転じる。


 薄暗い空間から、明るい、日の日差しが心地よい場所へ足を踏み入れたフィーナは、懐かしさを覚えつつ、顔をほころばせて深呼吸した。


 セクルト貴院校に通うようになって、実家に帰省した折、時々はこの場に足を踏み入れていたのだが――最近、足が遠のいていた。


 セクルトでも魔法鍛練を行える場所があったため、わざわざ森の奥まで足を運ぶ理由がなくなったのが、その理由だった。


 久しぶりに足を運んだ懐かしい場所には、昔と変わらない風景が広がっている。


 聞けば、ザイルが時々、草刈りなど手入れをしてくれていて、マサトの指導も受けているとのことだった。


「――――――。

 ――――――……え?」


 さらりと告げられた事実に、フィーナは最初、聞き流しそうになった。


 ザイルが指導を受けている?


 今も?


 そう考えた時に、おっかなびっくり、マサトから語られる内容に警戒していたのも忘れて、我知らず叫んでいた。


「今もって――!

 どうやってしてたの、そんなこと!」


 少なくとも、帰省時は側にいたはずだ。


『平日の日中、伴魂は校舎内にいなければならない。

 ……なんて決まりはないだろ?

 時々、ここに来て休んだり、村の様子見たり、ザイルと話したりしてたんだよ』


 戸惑うフィーナに、マサトは特に気にする様子もなく、平然として告げる。


 しれっと、のたまうその姿に、フィーナの方が唖然として閉口してしまう。


 ――しかし逆に納得する部分もあった。


 姿が見えないと思っていた時は、ドルジェに来ていた時もあったのだ。


「ザイルが一緒じゃなくていいって言うのは、ザイルにはもう話しているから?」


 話しながら、フィーナとマサトは、この広場での定位置に、自然と足を運んでいた。


 マサトは切り株の上に、フィーナは向かい合う場所にある、横に寝かせた丸太の上に。


 それぞれ、腰をおろしている。


『いや。ザイルには話してない。

 ――フィーナに先に話すのが、筋ってもんだろ』


 普段と変わらぬ様相を見せながら――マサトは要所要所で、これまでと異なる言葉を発する。


 気楽に、気負いなくしていたいのに、マサトの態度が、それを許してくれない。


 そうした雰囲気に耐えられず、フィーナは敢えておどけた表情で笑った。


「何かしこまってんの」


 茶化すように笑ったのだが――いつもは便乗してくるマサトが、静かな眼差しをフィーナに向けた。


 その眼差しに捕らわれて、フィーナも作り笑いを持続できず、自然と素の表情に戻ってしまう。


 さわさわと、風がそよいでいる。


 ――どれほど、互いの視線から目をはずせずにいただろうか。


 先に行動を起こしたのは、マサトだった。


 互いに見ていた目線から、ゆっくりと瞼を落とすと、静かに頭を垂れたのだ。


 そうして静かに口を開いた。


『悪い。巻き込んだのは俺だ』


 そう、告げたのだった。





フィーナの伴魂である、白い伴魂の話が始まります。

伏線をいくつか回収する予定です。

伏線回収。

書く前から楽しみで手がワキワキしてます。(苦笑)

どれだけ回収できるかな?

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