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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第四章 人語を介す伴魂
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14.密談【カイルの懸念 3】


 カイルはマサトの発言に、口をつぐんでいる。


 肯定はしないが――否定もしない。


「そう、なの?」


『騎士の兄ちゃん二人を外に出したのがいい例だろ。

 護衛の判断で捕縛しないようにしたんだろうが――王子様自身、必要ならそうしても仕方ないと思ってるんだろ?』


「――――――」


 カイルは答えなかった。


 何も言わないことが肯定だと思えて、フィーナは不安に顔を曇らせた。


「カイル――」


「疑いたくない。

 信じたいが――不明な点が多すぎて、判断が出来ないんだ。

 なぜあれほど高度な魔法が使える。

 なぜ偽ニックと同じような魔法を使える。

 なぜ偽ニックが他国の者である可能性を知っている――。

 そうした疑念を総じると――今回の首謀者は、二人が知っている者ではないのか、フィーナとマサトが通じているのではないのか。

 ……情報を、流していたのではないのか。

 そう思えて仕方ないんだ」


「そんな――」


 思ってもいなかった疑念に、フィーナは呻くようにつぶやいた。


 その場その場で対処してきたこと、常識はずれのことが、今、総じて自分たちに疑いの目が向けられるとは思わなかった。


 戸惑うフィーナと違い、マサトは想定していたことだったのだろう。小さく息をつくに留めていた。


『そう思われても仕方ないな』


「ちょっと――」


 フィーナの言葉は、扉をノックする音で遮られた。


 扉を見ると、マサトの飲み物を準備した侍女が、白い伴魂の前にスープ皿を置く。


『悪い。喉が渇いてんだ』


 断って、ミルクを飲み始める。


 人の飲む速度と違い、喉を潤すまでに時間がかかる。


 しん、と静まり返る沈黙が居心地が悪く、フィーナはおずおずと口を開いた。


「カイルは……疑ってたの?」


「違うっ!」


 立ちあがらんばかりに叫んだ声に、フィーナは目を丸くして、カイル自身も、叫んだあとで自分の声に驚いていた。


「違う……。疑ってなどいない。

 俺は疑っていないが……何も知らない者が……これまでのフィーナを……いつものフィーナを知らない者が、状況だけ聞けば、疑われても仕方ない状況ではあるんだ。

 フィーナがあの時使った魔法は、俺以外には知られていないだろうが――明るみになった時、いいわけできない可能性がある。

 そうした事態を避けたいんだ」


 カイルはテーブルの上についた手を、硬く握り締めて俯いた。


 脳裏に巡るのは、フィーナの感情豊かな表情だ。


 怒ったり笑ったり。

 情けない顔をするときもあれば、凛としたたたずまいを見せる時もある。

 様々なことに無頓着な面もあり、カイルに対しても「無礼」と言われかねない行動を悪びれなく取っている。けれどそれはあくまでもセクルト貴院校に関する場で、場が異なれば、王子として礼節に則った対応をしている――。


 王子として対応されると、心の隅に一抹の寂しさを感じていたのだが、カイルは気付かないふりをしていた。


 困っている人を見かけたら、自分が出来ることならば、相手が誰であろうと手を差し伸べる。それは王族であるカイルにも同じだった。


 ――身分に関係なく接してくれる者。それがどれだけ貴重な存在か……大切か。そのうち、あなたにもわかるわ。


 そう言っていたオリビアの言葉が甦る。


 カイルにとって、フィーナがその存在だった。


 自分が正しいと思ったことは引かず、間違っていたと思えば謝り、自分に出来ないことはカイルに頼り、逆にカイルが出来ず、フィーナが出来ることならば「どんと来い!」と受け止めてくれる。


 王族の資質、素養、たち振る舞い。普通に歩く時でさえ立ち姿、足の運び等、気を使っていたというのに、フィーナと接する時は、そうした細事を気にせずに済んだ。


 気にしていると逆に「どうしたの? かしこまって」とほくそ笑まれるから、反抗心で気にしない所作をしていた。


 そうした気を張らずにいられる時間を、空間を知って、窮屈だと思っていた日常が、次第に開けてきた。


 四肢を緩められる空間を――時間を、失いたくない。


 カイルはフィーナが側から離れる状況を、恐ろしく感じていた。


 忌憚なく話ができ、論じられる相手。


 そうした関係を築けているフィーナを、カイルは手放したくなかった。




カイルはカイルなりに打開策を見出そうとしているってところです。

フィーナと伴魂。

話の根幹部に少しずつですが、近づいています。


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