13.密談【カイルの懸念 2】
極秘の話の時には身の回りの世話をする者として、貞操観念を危惧する場合は立ち合い者として。
「秘匿者」と呼ばれ、場所によっては重宝され、普通の侍女よりも優遇されていた。
同席しても話す内容を決して漏らす心配がないからだ。
もちろん、侍女としての高い素養は必要不可欠で、給仕、しきたり、習わし等にも十分な知識を持っている。他、細かなやり取りは筆談で交わし、大まかなやりとりは手ぶり身ぶり、簡単な合図を決めていて、それは城に従事する者たちも彼女たちとの意思の疎通の際、共通して使用していた。
「聞こえないが、口の動きで会話を読み解くことができるからな」
その為、話をする際は白い布で口元を隠すのだと言う。
「本当に聞こえないの?」
「気になるなら試してみろ。――マサト、と呼んでもいいか?」
『かまわんよ』
「彼女たちに何か言ってくれ」
言われるまま、マサトは侍女たちに顔を向けると、大きめの声を上げた。
『俺も喉渇いた。何かくれ』
侍女二人は、指示があった時の為にカイル達を眺めている。
振り向いた白い伴魂が口を開いたのはわかったのだろう。
だが、不思議そうな表情を浮かべるだけで、驚きも狼狽も見えなかった。
「ホントだ」
伴魂が人語を話せば驚くはずだが、その様子がない。
カイルはマサトの言葉を聞いて、はっとしたようだった。
「気付かなくてすまない」
カイルは白い布を取って、飲み物をもう一つ、準備するように告げる。
が、それにマサトが付け加えた。
『熱いのは避けてくれ。冷たいのがいい。できればミルク。ついでにスープ皿の方が飲みやすい』
「注文が多いな」
『猫舌なんだよ。人の体と違うんだ。カップだと最後まで飲みきれない。顔が入らないから舌が届かないんだよ』
「そうなのか」
猫舌、の意味がよくわからなかったが、熱いものが苦手だろうと察した。
カイルは再度、ミルクをスープ皿で提供するよう告げた。
カイルの意図がわからず、侍女は怪訝な表情を覗かせる。
カイルはその考えを悟って、付け加えた。
「伴魂に用意してほしい。俺たちの分ではない」
カイルかフィーナか、どちらかが所望したのだろうかとの侍女の考えを先どって伝えると、納得と安堵の表情を覗かせて、侍女の一人が退室した。
カイルは再び白い布をつけると、本題を切り出した。
「何を、どこまで知っているんだ。
知っていること、全部話せ」
『藪から棒だな』
「『ヤブ』……?」
『唐突だなってことだ。
いきなり言われたって、何が知りたいのか、こちらはわからんよ』
ため息交じりのマサトの言葉に、カイルは歯がみした。
「俺だって――何が何だかわからないことだらけなんだ」
伴魂が人語を操る事さえ受け入れ難く、反抗する常識をどうにか抑え込んで慣れたと思ったところで、次から次へと思わぬ話が出て来る。
理解しがたい状況が続いて、全てを理解しようにも疑問符が多すぎて、考えるたび混乱してくる。
苛立つ心情を抑えて、カイルはフィーナに目を向けた。
「偽ニックと対峙した際、使っていた魔法。あれは何だ?」
「え?」
聞かれている意味がわからず、フィーナは目を瞬いた。
「聞いたことがない魔法だった。
護衛の為に――伴魂が狙われた経験から、独自に鍛練していたから、俺が知らないだけでいずれは学ぶものだと――貴院校で学ばないにしても、専門で鍛練する者なら知っていると思っていた。
しかし、書物を探しても、それらしいものが出て来ない。
ましてや伴魂が前詞を唱えて、主が呪文を唱える手法も聞いたことがない。
――前詞と呪文は偽ニックが使っていたものと似ていたと記憶しているが……。
魔法は、誰から手ほどきを受けたんだ?」
フィーナは困って、白い伴魂に目を向けた。
カイルもつられてフィーナの伴魂、マサトに目を向ける。
マサトはしばらくの沈黙の後、小さく息をついた。
『王子様』
それまでカイルを名前に敬称付けて呼んでいたマサトが、口調、声音を変えて口を開いた。
マサトの態度が変わったのを感じて、カイルは眉をひそめる。
『それを答えて、俺たちに何か得がある?』
「得?」
『そっちは知りたい情報を得られるだろうが、こちらは何を得られる?
返答次第によっては、捕縛もあり得るんだろ?』
「――え?」
驚いたフィーナは反射的にカイルに目を向けた。




