12.密談【カイルの懸念】
◇◇ ◇◇
カイルに連れられた先は、オリビアが使用した来客室とは別の部屋だった。
城には来客室が複数あるらしい。
カイルの後に続いて歩きながら、フィーナは建物内の豪奢な造りに眩暈を覚えた。
フィーナの後方には、アレックスとレオロードが続いている。
サリアとジェフには「カイルと話がある」と告げて、先に帰らせている。二人は怪訝な表情をのぞかせたが、特に何も言わず了承した。校外学習時、二人で行動していたときの話をすると思ったようだ。
カイルが入った部屋にフィーナも続けて入る。
オリビアが招いた来客室より、こじんまりとした部屋だった。
部屋の中央に置かれた丸テーブルには、椅子が四脚備えてある。少人数用の来客室のようだった。
カイルに促されるまま、フィーナは椅子に腰をおろし、白い伴魂、マサトも促されてテーブルの上に座った。
椅子に座ると見えないからとの配慮によるものだった。
同じく、来客室に入室したアレックスとレオロードは部屋の扉の前に立っている。
カイルとフィーナが椅子に腰かけてしばらくもしないうちに、扉が外からノックされた。
目くばせするアレックスに、カイルが頷いて通すよう告げる。
アレックスが扉を開くと、侍女姿の女性が二名、一礼してワゴンと共に部屋に入って来た。
ワゴンにはお茶とカップ、そしていくつかの茶菓子が用意されていた。
先ほどの来客室を出る前に準備するよう、カイルが命じていたらしい。
出されたお茶をカイルとフィーナが口にしてすぐ、カイルがアレックスとレオロードに視線を向けた。
「二人は外で待っていてくれ」
カイルの言葉に、アレックスとレオロードが驚きの表情を見せる。
「しかし、二人きりには――」
まだ幼い部類に入るとはいえ、男女が一室で二人きりになるのは好まれない。
貞操の観念から、フィーナへの気遣いでもあった。
レオロードが口にしたことは、カイルも想定済みだ。
「わかっている。だから二人を呼んだ」
カイルが侍女二人に目くばせをすると、その意味を悟った二人が一礼してカイルとフィーナ、それぞれの側に歩み寄ると、手にしているものを差し出した。
テーブルに置かれた白い布を見て、フィーナは首を傾げ、護衛騎士二人はカイルが言わんとしたことを悟った。
「彼女たち二人は部屋に残ってもらう。悪いが、これから話すことは聞かれたくないんだ」
「私たちにも、ですか……?」
信頼できないのかと、傷ついた面ざしを覗かせるアレックスとレオロードに、カイルは「すまない」と告げた。
「信頼がどうとの話ではないんだ。
――正直に言う。
俺もひどく混乱している。
冷静な判断ができるとも思えないんだ。
話の内容によっては、緘口令どころか、知った人間を拘束しなければならない可能性も出て来る。
二人を巻き込みたくないんだ。
頼む。聞き入れてくれ」
カイルの切羽詰まった表情を見て、二人の護衛騎士は何も言えなかった。
それほど重要な話なのかと疑念を持ったものの――テーブルに座り、呑気にあくびをしている白い伴魂を見て、さもありなんと納得した。
人語を操る伴魂など、聞いたことも見たこともない。
その伴魂の話を聞こうとするのだから、突拍子もない話が出てくる可能性は大いにありうる。
カイルの言葉に従ったアレックスとレオロードは、一礼すると部屋をあとにし、部屋の外で警護をすることとなった。
それを確認して、カイルはフィーナに、目の前に置かれた白い布をつけるよう、促した。
白い布を手に取ると、四方の布の長辺、その両一角に、紐状の輪がついている。
カイルはその輪を両耳にかけて、白い布が鼻から下を覆うようにしていた。
カイルにならって、フィーナも白い布を顔につける。
そうしながら、護衛騎士二人を部屋から出したのに、侍女二人が同室していることが、落ち着かなかった。
「この人たちはいいの?」
侍女二人をチラリと見て、対面席に座るカイルに尋ねる。
「大丈夫だ。彼女たちは耳が聞こえない」
秘密裏の話、極秘の会談、こうして立場上、男女二人きりで話さねばならない時には、二人のような侍女が同席することがままあった。
徐々に本題に向かっていきます。
ってか、私的には予定より早い展開なのですが、私自身が明かさない状況に耐えられなくなってきたのと、話の流れ的にそろそろいいかな~。と思っての展開です。
カイルの心の揺らぎがメインです。




