10.校外学習 その後の顛末【オリビアの騎士団事情 5】
「あわよくば、王位継承権の順位が変わればと、向こうは思ってるんでしょうけれど。
第一の目的は、私の騎士団に対して周囲から疑念を持たせることよ。
今回の件で、非難は受けるでしょうね。機能していないではないか。――とか何とか。
その辺は抗弁できるから、大丈夫でしょう。
あと私が騎士団を持てないようにして、団を取り上げようと画策している動きもあるようなのよね。
何だかんだ言いつつ、自慢できる騎士が揃ってるから。
もともと、素質はよかったの。日の目を見ることがあまりなかったのだけれど。
それが先の騎士の大会で軒並み好成績残しちゃったものだから、注目されるようになってしまったのよね。
あの時は嬉しいばかりだったけれど――こんな余波があるとは思ってなかった。
うかつだった所はあるけれど、後悔はしていないわ。
みんな頑張っていたもの。
成果が目に見えてわかるのって、やっぱり嬉しいじゃない。
そんな私の騎士たちを、私欲しか考えていない輩に預けるのなんて、絶対にいや。
騎士団をやめるつもりなんて、さらさらないんだから」
オリビアはそう断言する。
「もし、どうしても私が騎士団の長から退かなければならない時は、譲り先は決めているから。
――その時はゼフ。お願いね」
にっこりと王女らしい気品に満ちた麗しい笑みを向けられたゼファーソンは、呻くようにつぶやいた。
「初耳ですが……」
「言ったことないもの。そんな状況にするつもりなかったし。
どうしてもと言う時の話よ。
ゼフにも預けられないんだったら、即、解散なり解雇なりするわ。
欲でしか存在価値を見ていない者に預けるなんて、できないもの」
そうしたオリビアとゼファーソンの話を聞きながら、カイルが控えめに口を開いた。
「今回の件……まさか……兄上が……」
「それはないわ」
首謀者は第一王子ではないのか。
そう暗に含ませたカイルの発言を、オリビアは即、切り捨てた。
当事者であるオリビアが一番懸念を持つと思っていただけに、即答されたカイルが驚いたほどだ。
軽く目を見張るカイルに気付いて、オリビアは小さく息をついた。
「正直、その可能性も考えたのだけれど――。
どう考えても、兄上がそんなことをするとは思えないのよね。
他人に厳しくて、ひどいことをされた時もあったけれど、兄上は自分に出来ないことを他人に強要することはなかった。
それに、裏でこそこそ画策する類を嫌う方だから。
例え兄上の為にしたことだとしても、水面下の動きで事を成して、それを知ったとしたら、激怒するでしょうね。
「画策しなければ成し得ないほど、私に力がないというのか」
――なんて言いそうだけれど。
もし、本気で私を退けて第一王位継承権者になろうとするのなら、誰の目にも明らかな行動をされるはずよ。
そうした素振りは見えないのだから、兄上は今回の件には関わっていないでしょう。
――関わっていないけれど、フィーナとカイルが危険にさらされた件については耳に入っているだろうから、皮肉を言われるでしょうけれどね」
その時の事を想像してだろう。オリビアは憂鬱そうにため息をこぼした。
そうした後、フィーナが「あの」とピッと右手を上げてオリビアに尋ねた。
「結局、首謀者って誰ですか?」
それは皆が思っていることだった。
オリビアを――王女を目の前にしては、聞きたくても聞けない状態であったところを、身分に関して無頓着な部分があるフィーナが、口を開いて代弁してくれた。
オリビアはゼファーソンとディルク、アルフィードに目くばせをして、おもむろに口を開いた。
「再度、申し渡しますが、この場で話した内容に関しては、対外的に漏らしていいもの、この場限りのものが混じっています。
そのことを、ゆめゆめ忘れぬように。
これから話す内容は、この場限りのものです。
――結果としては「誰」と特定はされていません。
推測の域ですが、兄上を――第一王子を第一王位継承者としたい輩が画策したものだと考えています。
それには兄上は関わっていないでしょうが――第二王妃様が関わっているか否かは、正直、微妙なところです。
私に皮肉を言ったのは、カイルが校外学習に赴く関連で、人手が足りないと聞きつけて嘲笑っただけかもしれないし、オーロッドの件を聞いていたからかもしれない。
オーロッドも捕えていない今では、いろいろと推測の域を出ないところが多いの。
それを踏まえて対応するよう、心するように」
オリビアの言葉に、室内の面々は硬い表情で頷いた。
そうした面々を見た後、フィーナの白い伴魂、マサトが口を開いた。
『偽ニックの素性はわかったのか?』
聞かれたオリビアは、申し訳なさそうに眉を下げて首を横に振った。
「考えうる限りの手は尽くしているのだけれど……わからないままよ」




