9.校外学習 その後の顛末【オリビアの騎士団事情 4】
「姉上に危害を加えようとしたのだぞ。
極刑以外、あり得るのか?」
「結論から言わせてもらえば、可能性はあります。
それも高確率で」
「――まさか」
「王族であるオリビア様に危害を加えようとした。
その実行犯を庇うのが、王族血筋に縁のあるものだとしたらどうでしょう。
今回、オリビア様は少々足をくじいた程度で、怪我らしい怪我を受けていません。
いくら私共が現場状況を訴えても「危害を与えるつもりはなかった、勘違いしているのだ」とのオーロッド殿の発言に、後ろ盾の縁ある者たちが後押しすれば――。
オリビア様と復数人では、どちらに軍杯が上がるか、明らかでしょう。
そうなったときに、こちらも無傷ではいられません。
まず、オーロッド殿が所属する騎士団の長、ゼファーソン様が長たる器か否かが問われましょう。
それで終わればいいのですが――いえ、正直、それも看過できない事ではあるのですが――責任問題に織り交ぜて、長を退くようにとの話にもなりかねません。
先にも話にありましたが、オリビア様が騎士団を所有することを快く思っていない輩は多数存在します。
第一王位後継者として、他に学ぶことがあるのではないか。
女性が剣をふるうなど、いかがなものか。
王女としての――女性としての立ち振る舞いの品質が問われる……。
等々。
常日頃、そうした苦言を呈していた者たちが、好機を得ることでしょう。
そうした状況になる可能性が高いとわかっていて、オーロッド殿を糾弾できますか?」
ディルクの言葉を聞いたカイルは、しばらく言葉を失っていた。
そうした後、姉であるオリビアにゆっくりと顔を向ける。
オリビアはディルクの話を渋い顔で聞いていた。
何も言わないが――否定しないと言うことは、ディルクが言っていることはオリビアも懸念していることなのだろう。
さらにディルクは言葉を続けた。
「どのような状況を望むのか。
そう考えて不都合を排除していった結果、導き出されたのが、オリビア様がおっしゃった結論なのです」
「あくまで「仕方なく」よ。
望んだ結果ではないわ」
不機嫌に、オリビアは申し添えた。
話が一区切りしたのを見て、フィーナが「あの……」とおそるおそる口を開いた。
「その、オーロッドさんって、今、どうされてるんですか?」
「行方知れずよ」
間髪いれずオリビアが答えて、その後をゼファーソンが補った。
「護衛騎士を含むセクルト貴院生が校外学習から戻って城に着く少し前に、退団の意向をしたためた書面が提出されてな。
それも本人からではなく、人伝だったため、校外学習以後は私も同騎士団の面々の誰も、オーロッドを見ていないのだ。
退団理由は家の都合の為と書かれていたが――住処は知り合いの貴族籍の元に住み込みで、訪ねた時にはすでに何もない状態だった。
……今となっては、本当に住んでいたのかも怪しいのだが。
オーロッドの入団を頼んできた貴族籍の輩に、退団した事情や行く先を尋ねても、のらりくらりとかわすばかりだ。
どこまで知っているかは、判断つかなんだ」
「――結局、何が目的だったのですか」
尋ねるカイルに、オリビアは眉をひそめて思考を巡らせてから、ゆっくりと口を開いた。
「はっきりした目的はわからないけれど――私に危害を加えようとしたのは確かよ。
ただ、手段が甘いのがどうにも気になるのだけれど……。
命までは狙ってなくって……でも伴魂を狙ってたのは確かね」
「え? 伴魂を?」
伴魂を狙われたことがあるフィーナが、反射的に声を上げた。
「フィーナの伴魂を狙う輩とは事情が違うわ。
私の伴魂が傷を負ったら、第一王位継承者の伴魂としてはか弱すぎる。
第一王子こそ、第一王位継承者にふさわしい――。
おそらく、そう騒ぎたい者達の策でしょう。
オーロッドの件が明るみになっても、同じ状況よ、きっと。
相手の思うとおりに事が運ぶなんて、しゃくじゃない。
絶対、思い通りになんて、させないんだから」
だからわだかまりを無理矢理飲み込んで、オーロッドの件を公表しないことにしたのだ。
小難しい話になってます……。
騒動の理由に関しては、もう少し続きます。
※昨日は親知らずを抜歯(治療ではなく手術部類。埋まってる歯を、歯茎切って掘り起こしてのヤツ)して、痛みで大人しくしてました。
痛みが強いと、人間、考えることも何も出来ないのですね。
以前も経験してたのですが、再経験です。
前回は痛み止め飲んでも全く効果なかったのですが、今回は以前より効いてくれます。
でもやっぱり痛い~。抜いた側の顔が、熱持ってる感じがしてます。




