8.校外学習 その後の顛末【オリビアの騎士団事情 3】
「経緯はどうであれ、オーロッドは私の指揮下の騎士であった。身勝手な行動を管理できなかった責は私にある」
「それが身勝手な行動ならばでしょう? 初めからそれが狙いで、用意周到に、気取らせないようにしていたのなら、気付かなくても仕方ないでしょう?」
「いや、それは違う。
気付かないまま、相手が事を成したのだから、否は私にある」
「事の初めが異なるでしょうに。
権力ひけらかし~の、ごり押しで、しぶしぶ受け入れざるを得なかったのでしょう?
オーロッドが入団する前から私に話していたじゃない。
可も不可もないが、曲者だ。――と」
「それはそうだが――。
しかし、応じたのは私だ。
故に――」
「――っ! ああっ、もうっ!」
ゼファーソンとのやりとりの中で、オリビアが苛立ちを募らせていたのは周囲の者もわかっていた。
わかっていたが、オリビアの性格を知らない者達は、イラ立ちが沸点に達した彼女がどのような行動をとるかを知らなかった。
想像すらできなかった。
結果、オリビアの癇癪に身構えできなかった。
オリビアは眉を吊り上げて、肘置きをダンッ! と握り締めた拳で激しく打ち付けると、身を乗り出して、ゼファーソンにまくしたてた。
「剣技しか特技がないから引き受けてほしいって、第二王妃の親戚筋にごり押しされたんでしょう!?
断りたくても断れない状況だったんだから、仕方ないじゃない!
ゼフも十分注意して、オーロッドが校外学習の護衛騎士にならないようにしてたのに、元々、校外学習の護衛に付く者が、当日、体調不良となったから、代わりに当日、交代したのだと事後報告されたら、打つ手なんてないわ!
交代の報告も、他の書簡に紛らわせて気付かれにくい方法をとっているし、気付いたの出立した後だし!
~~~~~っ、ああ、だからもう!
ゼフは出来る限りのことしてくれた、頑張ってくれた、いつも頑張ってくれているってわかってる!
私もゼフの後ろ盾がないと、騎士団続けられないのよ!
オーロッドを口外せず、これまでと変わりない態度をとる理由はそこなの!
ゼフを庇っているだけではないわ。
私が私のために必要なの!」
まくしたてるオリビアを、彼女の癇癪に免疫のない者は勢いに圧倒されて硬直し、免疫の有る者はそれぞれの――目を閉じてやり過ごしたり、あからさまに耳をふさいだりと、それぞれ対処法を取っている。
普段からオリビアに接しているカイルは、特に驚く様子もなかったが、彼を除くセクルト生徒陣、フィーナ、サリア、ジェフは居住まいを正して硬直していた。
上品な仕草が求められる貴族籍のそれとは真逆の行為に驚き、どう対処すればいいのか、はかりかねていたのだ。
直接、怒号をぶつけられたゼファーソンは、オリビアの癇癪にも慣れているらしく、全く動じる様子はなかった。
毛を逆なでて威嚇する獣の子をあやすように、けれどオリビアに流されることなく「しかし」と主張を続けた。
「カイル殿下がおっしゃるとおり、首謀者にはそれ相応の罰が必要かと――」
「カイルッ!」
オリビアは眉を吊り上げた眼差しを、くわっとカイルに向けた。
「首謀者に対する罰と私の命、あなたはどちらをとるの!?」
「い、命?」
唐突な会話の流れに、カイルもぎょっとした。
しかしだ。
「罰と姉上の御命、どう関係するのです?」
「関係あるのよ! 事情がわからないなら余計な口出しはしないでちょうだい!
迷惑極まりないわ!
あなた、私が好き好んでオーロッドを弾劾しないと思っているの!?
そんなわけないでしょう!
今思い出しても、腹立たしくてならないというのに。
向こうの思惑通りになっているのかと思うと、余計にね!」
ぎりぎりと音を立てそうなほど、歯の根を噛みしめるオリビアを見て、ディルクがそっと口を挟んだ。
「殿下。殿下がおっしゃる通り、罪人を裁いたとしたとき、どうなるでしょうか。
――これには前提があります。
裁かれるのはあくまでも実行犯。
事を成し得た時に最大限の利を得る者には――そのために策を練った者には「確信がない」などの理由で、罰はないものとします。
加えて、実行犯は様々な援護を受けて、本来とられるべきはずの刑より、とても軽いものが執行されます」
「――なに?」
思ってもいなかった状況なのだろう。
カイルは信じられない様子で目を見開いた。
オリビアの癇癪です(苦笑)。
オリビアはやっぱりオリビアです。