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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第四章 人語を介す伴魂
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7.校外学習 その後の顛末【オリビアの騎士団事情 2】


「その者――シンという名の騎士なのだけれど、結局彼は、自分の用が終わるとアールストーンに駆けつけてくれた。

 校外学習への同行を打診した時の私の様子が気になったから。

 ……だなんて、そんな些細なことでね。

 結果、私とアルは彼のおかげで助かったの。

 後はディルク――。

 癇癪を起して遠ざけたのは私なのに、アルに策を講じてくれていたおかげで、信じられないほど速く駆けつけてくれた。

 ――改めて、この場で礼を言うわ。

 ありがとう」


 ディルクは驚いて、反射的にオリビアに目を向けた。


 校外学習以後、護衛としてオリビアにこれまでと変わりなく接していたものの、彼女の顔を――目を、正面から見ることはできずにいた。


 オリビア自身には目を向けているものの、視線は彼女の頭部に向けて、目を合わせないようにしていた。


 ――合わせられなかった。


 自身の行為に後悔はなかったが、だからと言って嫌悪感を含んだ眼差し、表情を向けられて平静でいられるほど、鋼の心の臓を持ち合わせてもいなかった。


 反射的に見たディルクを、オリビアは席から振り向いて顔を向けていた。


 静かに、ディルクを見ている。これまでと変わりないオリビアの眼差しだったが――肘置きにおいた手を、力を込めて握り締めたのが、視界の端で見えた。


 ディルクは息が詰まる想いを抱えながら、頭を下げて礼をとる仕草で、オリビアの視線から逃れる。


 オリビアが前方に顔を向けたのを気配で感じてから、ディルクは顔を上げた。


 じくじくと、胸の奥がしばらく痛み続けていた。


 オリビアは改めて面々を見渡して、話を続けた。


「表立って知られているのは、フィーナの伴魂が狙われたこと、カイルも標的となったこと。

 私と私の伴魂が危害を受けたとは、知られていないことです。

 フィーナとカイルの件は、休憩所で生徒の目もあってのことだったから、そこはありのままを話してくれても構わないわ。

 あくまでも、目的は「珍しい伴魂」と言うことでね。

 偽ニックの素性も判明していないから、カイルを王子と知らなかった輩だったと無理押しもできるから。

 ――だけど。

 私が襲撃されたことは、他言しないように。

 幸い、オーロッドの襲撃はテント内でのことだったから、騎士の中でも状況を知っている者は限られているわ。

 知っているのは――この場にいる者と、当事者であるシンだけだから」


「なぜ報告しないのですか」


 カイルが納得できないとすぐさま発言する。


 それはフィーナもサリアもジェフも同じ思いだった。サリアとジェフは、フィーナの伴魂、マサトが人語を発した話の時、オリビアの襲撃に関してもあらましを耳にしていた。


「実行者はわかっているのでしょう? その者を捕えて、首謀者を洗い出せばいいではないですか。罪を犯した者には、それ相応の罰を与えなければ」


 カイルの発言に、オリビアは困った表情を覗かせる。


 そのオリビアの心意を察したディルクが、代わって口を開いた。


「実行犯はわかっているのですが――」


「申し訳ない。その先は私が事情を話しましょう」


 それまで聞く側に徹していたゼファーソンが、身を乗り出して口を開いた。


 今日、初めて対面したフィーナは、隣のカイルに「誰?」と小声で尋ねた。


 オリビアの紹介で名と騎士団団長だと聞いていたが、詳しくは知らない。


 カイルもフィーナに顔を近づけて小声で答えた。


「姉上が信頼している方だと聞いているが……」


 カイルも何度か顔を合わせただけで、詳しくは知らない。


 校外学習の当事者でなかった彼が同席しているところを考えると、無関係ではないのだろう。


 ゼファーソンはディルクの後に話を続けた。


くだんの輩、オーロッドは私の騎士団の団員でした」


「静まりなさい。剣から手を離して」


 ゼファーソンの言葉に、アレックスとレオロードが反射的に剣を握りしめた。


 オリビアは想定していたのだろう。


 間髪いれず、二人に余計な行動を取らないよう、命じる。


 アレックスとレオロードは、不承不承、剣から手を離した。


 二人の行動を見て、カイルは納得する。


 オリビアの話を聞いた方がいいとカイルをこの部屋に留めながら、なぜか張りつめた空気を持ち続けた二人の行動が不可解だったのだが――。


 おそらく、アレックスとレオロードはあらましは聞いているが、深くは聞いていないのだろう。


 二人はカイルの護衛であり、騎士でもある。


 オーロッドがどの騎士団の所属していたのかも知っていたはずだ。


 首謀者の上司だと告げるゼファーソンを警戒し、剣に手を置いたのだろう。


 アレックスとレオロード、二人が剣から手を離したのを確認して、オリビアは小さく息をつき、ゼファーソンはもう一度「申し訳ない」と今度は深々と頭を下げた。




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