5.校外学習 その後の顛末【事実確認】
オリビアは順を追って話し始めた。
初めは事の発端であるガーヴィス隊所属、ニック・クラントに関してだった。
フィーナを「オリビアが呼んでいる」との虚言を用いて連れ出した彼は、フィーナの白い伴魂――マサトが言っていたように、偽物だったと結論が出た。
もともとニックは、校外学習に同行した騎士として名簿に記載がなかったと、後の調査で判明している。
本人への事情聴取により、アールストーン校外学習へ同行していないと判明し、実際、校外学習期間中に、ニックは自身の騎士団で鍛練を行い、所属騎士団の面々だけでなく、王城に勤務する者数名からも、ニックの行動の裏が取れている。
物理的に見ると、同日同時間帯、ニックは同じ場所に二人存在したことになる。
無論、そんなことなどあり得るはずがない。
そうした状況を鑑みて「自分がニック」と偽った者がいたのだとの結論に至った。
アールストーン校外学習時の騒動に関しては、極秘としている部分があるため、調査を行う者も事情を知っているものであり、かつ、内情をそれなりに理解しているものに限られた。
そうした事情から、人海戦術をとれば一日とかからない状況把握が、一週間ほど時を要してしまったのだ。
ニックへの事情聴取には、アレックスとレオロードも同席した。
その二人の証言からも、アールストーンにいたニックが偽物だと判断した。
アレックスとレオロード、二人は口をそろえて「アールストーンのニックは違和感があった」という。
「ニックは学生時、気弱な性格でした。
騎士の学校在学時も、騎士団に所属した時も、同じ印象でした」
と、レオロード。
「アールストーンではおどおどした所がなかったので、騎士団に所属して、成長したのだろうと思ったのですが――事情聴取時に対面したニックは、学生の時と変わらず、気弱な性格でした」
と、アレックスが口を開く。
ニックは一族の意向で、仕方なく騎士団に所属している。
無難にこなそうとする気質なので、全てにおいて後方に下がって状況を見守る性格だった。
アールストーンでニックと対面した時、アレックスとレオロード、二人とも違和感を覚えたのだが、互いに騎士団に所属してからまともに話したこともなかったので、ニックが成長したのだと考えたのだが――それでも、違和感は拭えなかったという。
校外学習時のニックは偽物の可能性があると聞いて、実際、王城に戻ってニックと対面したアレックスとレオロードは、仮説が正しいと判断した。
ニックは事情聴取の際、終始おどおどした態度を取っていたという。
ニックが偽物だったと判明して、ではアールストーンにいた、ニックを偽った者は誰なのかと話になったが、それに関してはオリビアは目を伏せて緩く首を横に振った。
「自害した遺体を回収して調べたけれど――わからないままだった」
白い伴魂――マサトが口にした『マスクをしている』との言葉通り、剥がれ落ちた顔の下半分から慎重に皮膚にはりついた薄い膜状の物体をはがして行くと、ニックとは全く別人の顔が現れたという。
人相から調べていったのだが、今現在も誰なのか、判明していない。
オリビアの話を聞いて、フィーナはちらりと自身の伴魂に目を向けた。
フィーナはフィーナで、カイルが気付いていない、偽物のニックの特徴でいくつか気付いたことがあった。
それをこの場で話していいのかどうか、迷っての目くばせだったが、白い伴魂――マサトはフィーナを見ようとしない。
意識下で伺う声をかけているのにだ。
そうした自身の伴魂の態度から、フィーナは気付いている部分を口にしないほうがいいと判断して、オリビアの話に耳を傾けることに徹した。
「校外学習のニック――便宜上、偽ニックと呼ばせてもらうけれど、彼の当初の目的はフィーナの伴魂だったのよね?」
オリビアの質問に、フィーナは頷いた。
「この子――マサトを所望している方がいるから、譲るよう、言われました」
それまでは偽ニックに恐れを抱くこともなかった。
脅されているのに、負の感情が自分に向けられているように感じなくて、奇妙な違和感を覚えていた。
しかし、そこへ訪れたカイルを見て、偽ニックの様子が一変した。
――ちなみにカイルが転移した瞬間は、休憩所にいた者たちの目の前で行われている。
それがどうしたものなのか、カイルも「わからない」とシラを切りとおした結果、偽ニックもしくは仲間が、何かしらの術なり魔法を用いて行ったのだろうとの結論に至った。
「話を総じると――フィーナは囮で、実はカイルを呼び出しての戦力分断を図ったのでしょう。
――まさか私が標的にされるとは思わなかったけれど」
自分の浅はかさを悔やんでいるのだろう。
オリビアは俯き加減に視線を落とすと、唇をかみしめて、肘置きの上の手で拳を作り、強く握り締めていた。
オリビアが口にした内容は、カイルとフィーナがマサトと話した内容とほぼ同じだった。
確認と、この場にいる者に話を伝えるために、オリビアは話しているのだろう。
問題はだ。
首謀者は誰か。
目的は何だったのか。
白い伴魂の名前。
いずれは出そうと思っていたんですけど、タイミング見てました。
他の伴魂に関しても、いずれは。って考えてます。




