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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第一章 魂の伴侶
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13.見つけた店は


 ディルクと店主が考えていたのは、店主が所望の品を買い取って、それをアルフィードが買い取る、といった手順だった。


 アルフィードが所望する道具を持っていた店は、ディルクに言わせるとブラックリストに入る輩が店主だと言う。


 店主の買い取りへの打診に、こう返事がきた。


『店に来た客に売る』……と。


 店主が個人的に欲しいものだと交渉したらしいのだが、あっさりと「ウソだろう」と見破られた。


「これを欲しがる理由がない」


 そう切り捨てたのだと言う。


 オリビアの同席の元、騎士団の部屋として使用している部屋で、事情を説明するディルクは神妙な面持ちだった。


「ディルはどう思うの」


 オリビアも思案顔で、どうしたものかと考えあぐねいているようだった。


 言われる通り、アルフィードが赴けば所望の物を手に入れられる可能性はある。


 ――だが。


「正直に申し上げます。

 今回は諦めましょう」


「諦めたほうがいいのでは」と提案することもなく「諦めるべきだ」と断言してくるディルクに、アルフィードは驚いた。


 オリビアはディルクの返事を予想していたようだった。


 なぜかもわかっているようだが、敢えてその先を聞いた。


「理由は?」


「信用できません」


 ディルクが言うには、今回、フィーナが買い取ろうとしている所望の物が本物なのかどうか、疑わしいという。


 ディルクが先日、案内した店は、商品の信頼度が高い店だった。


 偽物をつかまされる心配はなかったが、今回の店は違う。


 仕入先は訳ありでも受け入れるし、偽物があったりもするし(確信犯の時あり)、本来の価格より法外な値で品を売って問題になったころともあるそうだ。


 店主は悪びれることなく「欲しい物を仕入れただけ」「偽物と知らなかった(見抜けない)奴が悪い」「相場を知らない素人が悪いんだろう。相手も了承したから支払ったんだ」などと平然とのたまう。


 商売に関しては信頼が大事だと考えるディルクにとって、眉をひそめる輩だった。


「アルはどうしたい?」


 オリビアに聞かれてアルフィードは少し考えたものの、答えは決まっていた。


「行ってみたい」


 ただでさえ手がかりが少ないのだ。


 可能性があるなら確認したかった。


 アルフィードの答えはオリビアの想定内だった。


 だからこそ、どうしたものかと考えてしまう。


 思案するオリビアに代わって「実は」とディルクが口を開いた。


「私がしばらく同行できないのです」


 何でも、騎士団の遠征業務があって、宮中を離れなければならないらしい。


 遠征自体は現地調査なのだが、公務の一環なのでオリビアもディルクも他の騎士団面々も、同行を求められていた。


 アルフィードの付き添いとして誰かを同行させたい。


 できれば武芸の心得のあるものを。


 そうしたオリビアの意向もあり、また商人のつてがあったディルクが同行していたのだが、それが敵わない。


 先日、ディルクが連れだってくれた商店だったら、腕に覚えがなくとも心配ないのだろうが、今回は店の場所自体、治安に懸念があった。


 そんな二人を見て、アルフィードは「大丈夫」と告げた。


 ディルクに最初同行してもらってから数日、彼と共に街の商店を回っていた。


 望むものは簡単には見つからないとアルフィードも思っていて、商店街をつぶさに見て回る覚悟はしていた。


 実際、商店街を見て回る中、街の雰囲気にも店員とのやりとりにも慣れてきた。


 こまごまとしたものだが、身の回りの物を購入したりしたので売買の仕組み、金銭のやり取りをどのようにするかは理解している。


「一人でも行けるから」


「無理ですよ」


 心配させたくなくて告げた言葉を、ディルクが即座に否定する。


 即答されて少々傷ついた顔をするアルフィードに、ディルクが息をついた。


「指定されたのは日付だけではないのです。

 先方は夜にと言っています」


「夜? なぜですか?」


「……わかりません」


 ディルクは緩く首を横に振る。


「もともと『変わり者』で名の知れてる者ですから」


 扱う品も仕入先も売り手も一癖も二癖もある輩が多いという。


 一般人も来店するらしいが、比率から言って一割に達するかどうかとのことだ。


 そういう店だから、アルフィードが所望する道具を扱っていたのだろうが。


「とにかく」と、オリビアは口を開いた。


「心当たりに声をかけるから、一人で街に出たらダメ。日中でもダメ」とアルフィードに言い含める。


 ディルクも心当たりを捜してみると告げた。


「いざという時は弟をつけます」


 ディルクの言葉に、オリビアは首を傾げた。


「弟って……確かアルより年下よね?」


「はい。ですが、武芸の鍛練は受けていますので」


「そうだとしても、子供二人で街中をうろうろする方が標的になるから。

 腕に自信があっても、物の真贋、見極められる?」


「……それは……」


「迷うなら却下」


 スッパリと切り捨てるオリビアに食い下がって「知り合いに声をかけてみます」とディルクは告げた。


「とにかく、一人で街には行かないこと」


 その点は強くオリビアに約束させられた。


(一人でも大丈夫なのに)


 思いはあったが、友人であり雇い主である彼女に逆らえるわけもない。


 翌日から騎士団の遠征に出かけたオリビアとディルクから、付き添い人の話を受けたのは三日後のことだった。


 約束の日、待ち合わせの時間に城門へ行くと、先日使用した馬車が停まっていた。


 側には待ち人らしき人が二人いる。


 一人は見知った人物、オリビアの家の執事、セスだった。


 彼はオリビアの家で勤める前は騎士団に在籍していた経歴があり、武芸の点は申し分ない。


 ……ただ一つ残念なことがあって、それを補うために、もう一人、初めて顔を合わせるディルクの弟、リーサスが同行することになった。


 アルフィードはセスに軽い挨拶を交わした後、リーサスにも初対面の挨拶を交わした。


「アルフィード・エルドと申します。

 今日はよろしくお願いします」


 右手を左胸に添えて軽くお辞儀をする。


 略式の挨拶をすると、リーサスも同じく略式の挨拶で応じた。


「リーサス・ベルーニアと申します」


 少しくせっ毛があるのか、毛先だけ緩やかに波打っている。


 ディルクと同じ黄金色の髪に若草色の瞳が目を引いた。


 アルフィードより一つ年下と聞いていたが、頭一つ分、リーサスの方が背が高い。


 傍から見れば、アルフィードが年下に見られるだろう。


 リーサスは店までの案内役としての同行だった。


「よろしくお願いします」


 セスもリーサスに会釈する。


 オリビアはディルクをアルフィードの同行者と決める前、セスを同行者にと考えていた。


 しかし、セスの欠点である「方向音痴」が笑い話にできないほどひどいと知って、諦めた経緯があった。


 今回の同行も、セスが最善だと思っていたのだ。


 ……地図を見て確認しながらも「右で曲がる」べき角を「左に曲がる」(本人大真面目)、そうした状況を知らなければ。


 期日まで時間があれば、同行者の調整もかなったが、いかんせん、時間がない。


 そこでオリビアは、ディルクの言に乗る形で「足りないものを互いに補い合う二人」を同行者に据えることにした。


 リーサスの同行に、セスも安堵しているようだった。


 セスも自分の方向音痴を自覚していた。


 騎士団を退団したのも、それが原因なのだから。


 実地研修で一人だけはぐれるのを繰り返していれば、実戦時、妨げになるのは容易に想像できた。


 リーサスが御者に場所を指示をしたのち、三人は馬車に乗り込んだ。


 街中に夜闇が滲む中、馬車は目的地に向かって走り出した。

 

 



 すみません……。お買いもの、まだできてません……。

 一話で終わるはずだったのですが……。

 ディルクに続いて弟君の登場も、正直想定外です。

 今度こそお買いもの……できるかなぁ。(焦り)


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