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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第四章 人語を介す伴魂
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2.カイルの鍛練 2


 フィーナは自身の伴魂を膝に抱いて、椅子に腰を降ろしていた。


 隣にはダードリアが座っている。


 ダードリアは白い伴魂を気にしながら、フィーナに話しかけた。


「あなたも……こういう鍛練してたの?」


「え? ……はい」


「他には?」


「えーと……基本は同じことを繰り返しです」


「そう。……点火ランカ百回も……?」


「私は点火ランカは家の手伝いで使ってたので、点火ランカではなかったですけど、他のではそうですね。

 百はざらです」


「そう」


 ダードリアはフィーナの話を聞いて、彼女の能力に納得した。


 フィーナ自身は決して特異な能力を有しているわけではないのだ。


 地道な鍛錬によって、今の実力となっている。特筆すべきは彼女の伴魂なのだ。


 伴魂の指導によって、同年代の中では抜きんでた能力を持つに至っている。


 そうなった経緯も知っているので、いたしかたない事情だったと理解しているのだが――本来、そこまで鍛練する必要はない。


 やがてカイルは点火ランカ百回を成し遂げたが、成し遂げると同時に、カイルの伴魂ともども、疲労困憊となってその場に倒れ込んだ。


 アレックスとレオロードが、焦って駆けよるが、カイルは「疲れただけ」と、しばらくその場で体を休めると告げる。


 護衛騎士二人は、カイルの体調を気にしながら、使用した道具を片付けている。


 地に突っ伏すカイルの側にいったフィーナは、側に座り込んで、小さく息をついた。


「……だから言ったのに」


 カイルを覗きこんで、そう呟いた。


「大変でしょ?」


「……そうだな」


 返事をしながら、カイルは仰向けに寝転がった。


 今は立ち上がるのさえ億劫でならない。


 だからと言って、アレックスやレオロードに抱えられるのも、支えられて歩くのも、フィーナの前では避けたかった。


 フィーナも同等のことをやり遂げてきたとわかっているから。


『初めてにしては、よくやったほうだよ』


 点火ランカ百回と言うが、火が付かなかった分を考えると、それ以上行ったはずだ。


 火が付かなくとも、魔力を使用したのに変わりないのだ。


 カイルの疲労も、当然のことだった。


 疲労困憊しているカイルを見て、フィーナは「ねぇ」と不思議そうに尋ねた。


「どうして前詞アンセル唱えるの?」


「……何?」


「面倒じゃない? いちいち唱えるの」


呪文ルキだけで成せないから仕方ないだろ」


 フィーナと違うのだと苦い思いを胸に抱いて告げると、フィーナはけろりと言い放った。


「試しもしないのに、出来るわけないでしょ」


「……お前なぁ」


 そのころには幾分、疲労も回復してきて、上半身を起こして座るくらいはできるようになっていた。


 膝を屈して座っているフィーナと同じ目線で座ったカイルは、頬杖をつくフィーナを軽く睨んだ。


「やり方わからないからできないんだよ」


 告げたカイルの視線を受けて、フィーナはしばし、口をつぐんだ。


 そうした後に出てきた言葉は、脈絡のないものだった。


「……カイルって真面目で馬鹿正直だよね」


「何だと?」


 褒めているのかけなしているのか。


 どちらにしても、いい意味に取れなかったカイルは眉をひそめた。


「もう少し、楽しようって考えた方がいいよ。

 手を抜くって意味じゃなくてさ。

 無駄を省くこと、考えた方がいいよ。

 点火ランカだって、あれだけ何度も唱えたんだから、自分の中でのイメージはできてるはずなの。

 前詞アンセルって、結局、呪文ルキを成させるためのイメージ付けをするためのものなんだから。

 イメージがしっかり出来てれば、前詞アンセル必要ないの。

 前詞アンセルって唱えることによって、魔法が成る形までを想像するものだから。

 呪文ルキだけでできるかどうかって、試してみないとわかんないでしょ。

 反復練習するのって、イメージを植え付けるためでもあるからね。

 呪文ルキだけでできるようになれば、負担も軽くなるよ。

 前詞アンセルにも魔力使うから。

 効率的に行こうよ」


 へらりと笑って告げるフィーナを見て、カイルは自分の手を見下ろした。


 ランプを片づけているアレックスに声をかけて、彼が手にしているランプに目を向ける。


「……点火ランカ


 身の内の魔力を炎に変じるイメージは、繰り返し行った作業で、深く、明確に想像できていた。


 そのイメージを前詞アンセルを経ることなく用いて、呪文ルキに込める。


 振り返ったアレックスの手元のランプに、炎がともった。


 驚くアレックス、「ほらっ!」と、にっと微笑むフィーナ。


「やればできるじゃない」


 嬉しそうに微笑むフィーナを見て、カイルは「……そうだな」と返事をしようとしつつ、できないまま意識を失った。


 フィーナの笑みを見て、どこか安堵して――。


 フィーナの肩に寄りかかるように、倒れたのだった。


 


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