57.校外学習二日目【人語を介する伴魂】
ディルクとオリビアが休憩所に戻ると、姉の無事を知ったカイルは安堵に頬を緩めた。
ディルクがカイルから事態を聞いて飛び出してからこれまで、顔を強張らせて口数少なく、ずっと心配していたのだ。
元気のないオリビアを、襲撃を受けたショックからだと思い、休憩所についた時には意識を失っていたアルフィードの体調を気遣い。
そうしながらカイル達は、校外学習の運営陣として今後の日程、生徒達の安全確保を、教師陣と護衛陣と話し、予定より早いが校外学習を切り上げて、城に戻る方向で話がまとまった。
ちなみにオリビアはアルフィードと共に、同室で休息を取っている。
オリビアに代わって護衛陣の統率はディルクがとっていた。
話がまとまると、教師陣は生徒に指示を出しに行った。
運営陣は、構成員であるフィーナとカイルが標的になったことを考慮して、どのように帰路につくか、別室でディルクと打ち合わせをすることとなった。
来る時はフィーナとカイル、ジェフとサリアの四人が馬車に同乗していた。
フィーナとカイル、護衛の騎士二人の編成にするか、それとも行きと同じ編成で、横に護衛の騎馬をつけるか。
いや、それだと逆に目立ってしまうのでは。
しかし馬車に余裕はない。
では騎馬の心得があるジェフともう一人、同じく騎馬の心得のある生徒を捜してその二人が馬で、騎馬で来たカイルの護衛二人と交代し、サリアはうまく調整しようと話が進んでいた。
そうした話が進む中、終始落ち着きのなかったフィーナが我慢できず「……あの」とディルクに口を開いた。
「ネコ、見ませんでした?」
オリビア達が戻ってから、キョロキョロと周囲を捜していたフィーナの言葉を聞いて「そう言えば」とカイルも周囲を見渡した。
ディルクに見なかったかと尋ねるも、ディルクは首を横に振るだけだ。
フィーナとカイルは顔を見合せた。
オリビアの元へ危険を知らせるために、先んじて飛び出したはずなのだが……。
「――もしかして」
はっとしたフィーナはおもむろに口を開く。
「――わかってたフリして、迷ったとか?」
何て間抜けな。
そうした感情を覗かせて告げたフィーナの言葉に、間髪いれずツッコミが入った。
『誰がだ、コラ』
軽い足音を立てて、白い伴魂がテーブルに乗ると腰を下ろした。
ため息交じりに告げられた言葉に、周囲は一瞬、静寂に包まれた。
ディルク、サリア、ジェフが、同様に硬直して時を止めていた。
目の前で起きたことを信じられないように、視線がフィーナの白い伴魂へと注がれる。
フィーナの伴魂が人語を操ると知っていたカイルは、どうしたものかと戸惑っていた。
カイルも知ったのは先ほどのことだ。
隠していたのだろうと想定していたので、今後も必要以上に知られる風にはしないと思っていたのだが。
主であるフィーナをつと見ると、彼女も想定外だったのだろう。
自身の伴魂の行動に、泡食っていた。
「ちょっ――っ!」
口に立てた人差し指をあてて「しーっ! 声出てるっ!」と忠告するが、当の伴魂は面倒そうにため息をついた。
『もういいんだよ』
言いながら、眉をひそめてパタパタとテーブルを尻尾で叩いている。
「でも他の人には知られないようにって――!」
言ってきたではないか。
そう慌てるフィーナに、白い伴魂は主を見て小さな笑みを漏らした。
『前はな。
あの頃は伴魂としての繋がりが浅かったから、横やりの可能性を避けたかったんだよ』
横やり――暗に含んでいるが、伴魂強奪の意味だろう。
察する周囲の思考を白い伴魂も感じ取った。
それに則って話を続ける。
『繋がりが深くなった今では、それも難しいからな。
契約解除しようとしても、そうそうできるもんじゃないんだよ。そうだろ?』
白い伴魂に視線を向けられ、問われたディルクは、そこでハッと正気に戻った。
目の前の状況に戸惑いつつも「……ええ」と肯定する。
「良好な関係が築かれてきた伴魂を奪うと、伴魂自身にも負担がかかると聞いています」
断言できないのは、そうした事例が少ないからだ。
少ないのも当然だ。
通常、契約を交わした伴魂を奪うなど、ありえないのだから。
少ない事例ながらも、そうした状況になった場合、後の伴魂は短命になるというのが通説だった。




