56.校外学習二日目【アルフィードとシン 2】
「………………」
シンの言葉に、アルフィードは何も言えなかった。
確かにそうだと思えてしまうのだ。
アルフィードはシンが苦手だった。
アルフィードは考えが及ばなかった視点から意見されることに、慣れていなかった。
考えもしなかった視点から意見なり助言なりを受けることがなかったので、どう対処すればいいのか、わからなかった。
わからなくて、拒否反応的にシンに対して身構えてしまっていた。
シンの言葉、言動をどう受け止めればいいのか、戸惑っていたのだ。
そうしたシンの言動も、時を重ねるにつれ、次第に受け入れられるようになっていた。
全てを素直に受け入れられるには、心の準備が必要だが――以前に比べれば、多少は素直に耳を傾けることはできる。
そうした経緯の中での、今回のシンの苦言だ。
側仕えである自分の状況を考えるべきだとの提言でもある。
……以前のアルフィードだったら、シンの気遣いも、小言としか思えなかった。
彼の真意を汲みとることができずにいた。
今はシンの言葉、行為の奥にある想いを理解できるようになっていた。
オリビアは不遜な動きを何かしら察知していたのに、側にいたアルフィードは気付いていなかった――。
そう考えると、護衛より何より、気付かなかった方が問題あるように思える。
シンに抱きあげられる気恥かしさを感じつつ、けれど指摘された点に関しては素直に受け止められた。
先にディルクによって馬車内に入ったオリビアに続いて、アルフィードもシンによって馬車内に座る。
正直、アルフィードは意識を保っているのがやっとだった。
全身が気だるく、疲労感に満ちている。
頭もぼんやりと霞がかっていた。
四肢は魔力の使い過ぎによる疲労感で、動かすことができない。
それでも、アルフィードはオリビアに不穏な動きを感じていたのかと尋ねようと思っていたのだが――。
尋ねる前に、俯いたままのオリビアを見て、何やら様子が違うことに気付いた。
名を呼んでも返事がない。
どうかしたのかと聞けば、俯いたまま、ゆるく頭を横に振るだけだ。
やがてアルフィードに寄りかかるようにしながら、腰に腕を回して抱きついてくる。
これまでにないオリビアの行動に、アルフィードは驚きながら「何かあったのか」と尋ねるのだが、オリビアは答えようとしなかった。
「……リヴィ?」
愛称で呼んでも、オリビアがアルフィードの問いに答えることはなかった。
そうしたオリビアの――友人でもあり、主として尊敬している彼女の様子に、アルフィードは何かしら思うところがあるのだろうと判断して、尋ねようとしていたことも、今は時期ではないのだろうと思い至って口にするのをやめた。
ただ。
「無事で……よかった」
オリビアが今、こうしてここに存在することを、心から安堵したのだった。
オリビアも、不穏な動きを感じていたとはいえ、こうして自らが危害を受ける対象となるまでは考えておらず、オーロッドの行為に衝撃を受けたのだと、アルフィードは考えていた。
シンと異なり、ディルクのとった行為に関しては、思いも及ばなかった。
オリビアから返事はなかった。
アルフィードを抱きしめる腕に、より一層、力がこもっただけだった。
そうしたオリビアを気遣いつつ、アルフィードは馬車の外にいるシンを考えていた。
シンは今回の状況を報告する為に、宮廷に戻ると言っていた。
シン自身は騎士団の中でも外野的位置を保持しているので、リーサスなどに今回の状況を話して、リーサスから宮廷でも上層部に話が行くだろうと、アルフィードは考えていた。
実際、シンはリーサスを介して速報として第一報を報告した。
そうして。
状況は宮廷内のごく一部の者に知られることとなったのである。
更新に時間かかってすみません。
筆が進まない……というか、なかなか話に乗れなかったです……。
……乗れない、とは違うかな。
悪乗りに気をつけようとして、勢いをセーブしてた。って感じですね……。
お仕事関連、プライベート関連も、時間をとられてしまった経緯もありました。
ようやく一区切りです。
次回は別場面、別状況の(校外学習内ではあります)話となります。