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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第三章 アールストーン校外学習
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52.校外学習二日目【ディルクの思慕 2】


 ディルクの告白は、好ましいものではない。


 王族との婚姻は綿密な準備が必要で、相手も様々な条件が必要となる。


 そうした前提を無視した王族への好意は迷惑でしかなかった。


 思慮の足りない王族が、身元のしっかりしない者からの好意をまともに受け取って、政治を乱した過去は歴史でも明らかだ。


 そうした経験から、王族への個人的な好意は忌避する風習となっていた。


 政治的、政略的な要素が色濃い場合は、一度の対面もなく、互いの意思も関係なく、婚姻関係が結ばれる場合もある。


 そうした外略的しがらみも関係なく、互いの好意から婚姻関係を結んだ事例も存在するには存在した。


 互いの好意から始まる場合、長い時間をかけて、緩やかに互いの意思を確認しつつ、婚姻へと繋がるのだった。


「あなたが危険にさらされたあの場を目にした時――後悔しました。

 想いを伝えてはならないと思って、ごまかしていたのを悔みました。

 私の本心を知っていても、あなたはカイル殿下の元へ私を遣わせましたか?」


「――――……」


 オリビアは俯いたまま逡巡を見せた後、ゆるく首を横に振った。


 あの時はオリビアの護衛数を減らすことに、ディルクがしつこく異議を申し出たのがうっとおしかったからだ。


 小言を聞き続けるのが嫌で、カイルの護衛を口実に、ディルクを目の届かない場所へと追いやった。


 ディルクの苦言を「小言」としか見ておらず、心底心配しての言葉だと考えていなかった。


 オリビア自身、その時の浅はかな行為を悔んでいる。


 オリビアにとってディルクは、今やなくてはならない存在となっている。


 共に過ごした時間の中で、オリビアの性格、思考、言動を先どって行動するなど、補助的な部分をこなしている。


 オリビアの細部を理解しているディルクの側は、彼女にとって居心地のいい場所であった。


 思い返せば「王女」らしからぬ行為をとっても、ディルクは苦言を呈することはなかった。


 それが「オリビア」なのだと受け止めてくれていた。


 今回、オリビアの護衛数を減らしたことでの苦言は、彼女の安全を思いやってのことなのだ。


 オリビアは「自分に危険は及ばない」との根拠のない思いから、苦言を呈し続けるディルクを疎ましく思い、自分の側から遠ざけた。


 ディルクの素養の高さはオリビアも認めている。


 オーロッドの襲撃を受けて、オリビアもディルクをカイルの元へ派遣した手段は失策だったと痛感していた。


 平定平素の御世みよの中、王位第一継承者である己を、オリビア自身が軽んじていたのだと後悔した。


 オリビアは自身が王位第一継承者であると認識していたものの、日ごろから母より「身分に、立場におごらないように」との戒めから、自分が王位に最も近い場所にいるとの実感を持てずにいた。


 オリビアは正妃の第一子ではあるが、第二王妃が、正妃より先に子を、それも男児をもうけている。


 過去の歴史から見ても、そうした子の出生順の場合、第二王妃の子でも、男児であれば王にとっての第一子が、王になったこともあった。


 オリビアとしては、兄である第一王子がいずれは国王になるのだろうと漠然と考えていた。


 周囲の反応からも、そう思っていた。


 だから、王女としては周囲から眉をひそめられた騎士団に所属、所属だけでなく自ら統率をとる行為も行ってきたし、自身も武芸鍛錬に進んで参加して、護衛の術を学んできた。


 オリビアの騎士団に関わる状況も、ディルクは全てを受け止めて、補佐的に行動してくれていた。


 オリビアが部下として、ディルクを拒む要素は何一つとしてない。


 ――単なる部下としては。


「明らかな想いを告げる気は、先ほどまでありませんでした。

 オリビア様を慕っているのは、尊敬している上役としてだと、周囲に対してもそれでよかったのです。

 個人的な感情を知られれば、オリビア様も都合が悪いと思っていましたから。

 しかし想いを告げなかったために、あなたに危害が及ぶなら。

 咎められてもいい。

 部下として――護衛としてだけでなく、あなたを思ってるからこそ護りたいのだと知っていて欲しかった。

 ――私はあなたが傷つくのが何よりも恐ろしいのです。

 もし預かり知らぬところで、あなたが何かしらの危険に陥ったとしたら、私は正気でいられない。

 ――私をあなたの意志で遠ざけないでください。何があっても私はあなたの味方です。

 危険があれば遠慮なく盾としてお使いください。命潰えたとしても、それであなたを守れるのならば本望です」


「馬鹿なこと言わないで」


 終始、俯き続けていたオリビアだったが、ディルクの終盤の言葉を聞いて、弾かれたように顔を上げた。





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