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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第一章 魂の伴侶
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12.騎士団新人、ディルク・ベルーニア


 ディルクと名乗った青年に、アルフィードは慌てふためいた。

 

 声が大きい。


 門を行き交う人々が「何事か」と視線を向けている。


 ……視線を向けつつ「関わらない方がいいだろう」と腫れものを見るような態度をとっていた。


 そうした状況下にあることを理解して、アルフィードは「やめてください」と小声で諭す。


「私に『様』なんて、つけないでください」


 騎士団新採用と言うことは、アルフィードより少なくとも三つ年上、十五の年巡り以上である。


 年上の者が年下の者に過ぎた敬称をつけるべきではない。


 それだけでなく、外見からしても、年上のディルクが年下のアルフィードに敬称をつけるのだから、そうした身分差があると見られてしまう。


 実際はディルクが上なのだ。


 騎士団に所属するには一定の身分が必要だと聞いている。


 そんなディルクがアルフィードに敬称を用いるなど、立場が逆転している。


 そうしたアルフィードの意思を、ディルクは中途半端に理解した。


 「小声で」と言われていると感じたので「小声で」返答した。


「しかし、アルフィード様はオリビア様のご友人でしょう?

 オリビア様からくれぐれも大事ないようにと頼まれております」


「いえ、あの……」


 言っていることは合っている。


 合っているけど、根幹が違う。


 どう説明すればスムーズに理解してくれるのか。


 思案する間にディルクは若草色の瞳を輝かせて胸を叩いた。


「任せてください。街には詳しいと自負しているので」


 後で知った話だが、ディルクの家系は貴族ながら商人との繋がりも深く、手広く事業を展開していた。


 そうした関連からディルクは貴族街に、特に商店に詳しかった。


 オリビアがディルクに任せたのも、それが理由だろう。


 とりあえず、人目を避けようとアルフィードは馬車に入ろうと声をかけた。


 素直に従ってくれるディルクだったが、敬称に関しては変な勘違いをして変えてはくれなかった。


「そうした身分ではないのです」

「年下です」

「村出身者で爵位のある家でもないのです」


 そう告げてもディルクは「すべて存じてます」と笑顔を浮かべる。


「けれどオリビア様のご友人ですよね」

「オリビア様の側仕えですよね」

「私より長くオリビア様のお側にいますよね。年数的には先輩ですよね」


 と、事実なのだが「ちょっとそれは理由として違う」事象を連ねて来る。


 どうしたら理解してくれるかと思案している間に、商店が連なる区域にたどり着いてしまった。


 どのような店に行きたいのかはあらかじめ、オリビアに伝えていたので、ディルクにも伝わっていたようだ。


 ディルクに案内されるまま、開けられた店の扉を開いて中に入ると、アルフィードにとって別世界が広がっていた。


「……わ……」


 と、我知らず声が漏れてしまう。


 店の中はほの暗く、けれど重厚な雰囲気が漂っている。


 吹き抜けの高い天井、木材をふんだんに使った店内の作り、年季を重ねた独特の風合い。


 調度品も品よく装飾が施されていた。


 四角い店内には四方に棚が設えてあり、商品らしきものが並んでいる。


 棚の前にはカウンターがあって、他の客の様子を見ていると、店の人に声をかけて商品を見る仕組みのようだった。


 村の商店しか知らなかったアルフィードには衝撃的な光景だった。


 村の商店は手狭で、客が二人入れるかどうかの広さしかない。


 店主のカウンター越しに話をするのも、商品が店主の後ろに並べてあるのも似ているが、村の商店は雑多に詰め込んであった。


 所望するものを伝えて店主が取り出して売買する形式は同じだ。


 村での買物は、両親の傍らで見ているだけで、アルフィード自身、村でも買物をしたことがない。


 ディルクは店の奥に足を進めると、最奥のカウンターにいる男性に声をかけた。


 銀縁眼鏡をかけ、口髭のある初老の男性だ。


 ディルクと知り合いなのだろう。


 短い挨拶を交わした後、アルフィードを紹介した。


 紹介の際にはディルクとアルフィードは「知人」だと話を合わせている。


 店主として紹介された男性は穏やかな笑みを浮かべて「いらっしゃいませ」とアルフィードを迎えた。


 店主の温和な雰囲気に、アルフィードは緊張を緩めた。


 アルフィードが頼んでいたのは、伴魂の道具を扱う店だ。


「どのような商品をお探しでしょうか」


「あの……伴魂を戒める道具があると聞きました。ありますか?」


 アルフィードの言葉に、店主もディルクも軽く目を見張り、顔を見合わせた。


 困り顔の店主に代わって、ディルクが「恐れながら」と口を開く。


「なぜそのような物をお求めになるのです?」


「……それは……」


 二人の態度にアルフィードも気付いて答えに窮する。


 宮廷にある資料で見たことがあったのを思い出して、存在するのを確認していた。


 珍しいものだと感じていたが、二人の態度を見るに、好まれる物ではないようだ。


 黙り込むアルフィードを見て、ディルクも何かしらの事情があると察したようだ。


「差し出がましいようですが」と前置きを告げて言葉を続けた。



「伴魂を戒めるということは、伴魂を制御できない、伴魂を主の抑制下におけないということです。

 ……最悪、暴走の危険もあると考えられます。

 そのような伴魂を戒めにより制御するより、契約を解除するほうが無難かと思われますが」


 そんなこと、わかっている。


 わかっているけど、どうしたらいいか、わからないのだ。


 アルフィードは肩から斜めにかけたバックの紐を握り締めた。


「……わかっています。

 けど、必要なんです」


 アルフィードの言葉に、切羽詰まっていると、ディルクも店主も察したようだった。


「どうにかならないのか」と視線で投げかけるディルクに、店主は眉間に皺を寄せて呻いた。


 まず、店にそうした物は置いていないらしい。


 ディルクが案内してくれたこの店は、確かに伴魂に関する用具を扱っているのだが、移動用のバスケットや伴魂用の寝具、最近では衣服を扱っていると言う。


「用意できないわけではないのですが……」


 渋い顔でアルフィードをちらりと見て、店主はディルクに答えた。


「『蛇の道は蛇』と申します。

 そうした物を取り扱う輩に、心当たりはあるのですが……」


 苦い口調でいうところを見ると、クセのある輩、もしくは真っ当な相手ではないのだろう。


「それに、金銭的にも負担が多いかと……」


 アルフィードの年から払えるのだろうかと心配していた。


「よく、わからないのですが……」


 アルフィードはオリビアから聞いた手持ちの金銭の額を、ディルクに伝えた。


 アルフィードはオリビアから給金の支給を受けている。


 給金は宮中の預かり所で管理されていた。


 必要な物を購入する折に何度か払い出したが、基本、預けたままになっている。


 今、どうなっているか、自分でもよくわからなかったので、オリビアに確認してもらった。


 金銭は今日は持ってきていない。


 物が見つかったら取り置きをお願いして、後日、支払に来ようと思っていた。


 金額を聞いたディルクは目を丸くして、店主に伝えた。


 相場が全くわからないので、店主へ話が行く時にディルクに伝えることで、多すぎる場合はそこそこの金額を、少なすぎるときは話を止めるようにしたのだ。


 金額を聞いた店主は、ディルク以上に驚いて、目を丸くした。


 そしてディルクとアルフィードを交互に見つめる。


「それだけあれば十分でしょう。

 ……一体、どういう方なのですか」


 アルフィードをまじまじと見つめる店主に、ディルクは爽やかな笑顔で答えた。


「私の上司の友人で、私の大先輩です。」


「合ってるけど微妙に違います!」


 即、反論したアルフィードに、ディルクは


「またまた。御謙遜を」


 と受け入れてくれなかった。


 それから宮中で宮仕えをしつつ、ディルクからの連絡を待っていた。


 店主からの朗報はディルクが継いでくれるようになっていたのだ。


 数日後。


 店主からお目当ての道具らしきものを見つけたとの連絡があったが、買取は思ったようには事が運ばなかった。


 

 

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