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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第三章 アールストーン校外学習
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51.校外学習二日目【ディルクの思慕】


 温和で、時折おどけた態度をとる彼の、初めて目にする表情と眼差しに、オリビアは思わず視線を逸らす。


(――違う……)


 初めてではない。気付かなかったわけではない。


 時折、向けられるディルクの熱を帯びた眼差しを、オリビアは目にしていた。


 気付かないふりをしていた。


 気のせいだと、思いこもうとしていた。


 その眼差しが意味するところを。


 その表情が意味することから、ずっと目を逸らしていた。


「……ごめんなさい」


 オリビアは高鳴り続ける鼓動を感じながら、そう告げるのが精いっぱいだった。


 鼓動を落ち着かせようと平静を装いつつ、我知らず、ディルクの袖を掴んでいた。


 掴んだあと、ハッとしてすぐに手を離した。


 オリビアはなぜか……そうしてはならない気がしたのだ。


 馬車に到着すると、オリビアを椅子に座らせるためにディルクも一度、馬車内にあがった。


 オリビアを座席に降ろすと――ディルクはその動きの流れで、片膝をつき、正面からオリビアを両腕で挟む体勢で、座席に両手をついた。


「――ディルク?」


 間近な位置から離れようとしないディルクに、オリビアがどうしたのかと小声で声をかける。


 不安に顔を陰らすオリビアに、ディルクは囁いた。


「――お慕いしております」


 オリビアは小さく体を震わせた。


 反射的に何か話そうと口を開くのだが、声が出てこない。


 幾度か口を開いて空ぶかせた後、オリビアは何かを決めたような表情を見せて、にっこりとほほ笑んだ。


「知ってるわ。

 いつも言っているじゃない。

 ……出来の悪い上司でごめんなさいね。

 もっとあなたの忠告に耳を傾けるべきだった。

 感情に走りすぎてしまったわ」


 ディルクの思いは、オリビアを司える主に向けたものだとの返事に持っていく。


 オリビアとしては遠回しながら諭したつもりだった。


 王族であるオリビアに、軽々しく告げていい言葉ではないのだと、踏みとどまってほしかった。


 ……同時に、これまでの関係であれるよう、流してほしかった。


 そうしてオリビアが道を示したのに、ディルクはそれに従わなかった。


「そうではないと――私の気持ちにはお気づきでしょう?」


 無理に笑顔を張り付けているオリビアを、まっすぐに見つめるディルクの眼差しは、変わらず熱を帯びている。


「もっとわかりやすい言葉にしましょうか?」


 間近で囁かれる声に、ぞわりと首筋が総毛立つ。


「待――」


 待って。


 そうオリビアが告げるより先に、ディルクは口を開いていた。


「身分など関係ない、同等の立場であったら、あなたを抱きしめたかった。

 無事であったのだと――確信を持ちたかった。

 今もそう思っています。

 オリビア様を人としても尊敬しています。あなたの信念、行動。尊いものだと思っています。

 けれどそれだけでなく、あなたが好きなのです。愛おしくてならない」


 囁く声は低く、かすれを帯びていた。


 体の両側をディルクの腕に挟まれているオリビアは、間近でディルクの体温を感じながら、俯いて両の瞼をきつく閉じて、座席に置いている両の手の拳を握りしめた。




――――っ!!

(声なくガッツポーズ)

やっと恋愛風味突入です。

主人公ではないのですが。

当初考えていた展開とは異なりますが、結果的に風味が増したので、結果オーライ。ということで。

恋愛風味。

もう少し続きます~。(悦)

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