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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第三章 アールストーン校外学習
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50.校外学習二日目【ディルクとオリビア】


 ディルクが視界に入らないようにしながら、オリビアは立ち上がった。


 立ち上がったものの、くじいた足が痛んで、小さな声を上げてしまった。


 それに気付いたディルクが、さらに眉をひそめた。


 ディルクの表情にオリビアは気付きつつ、気付かないふりを続けていたのだが――。


 ふと陰った視界を不思議に思って顔を上げると、息が触れそうな間近まで、ディルクが距離を詰めていた。


「ディ――」


 驚いて、声を上げそうにあるオリビアを、憮然とした眼差しで見降ろしたディルクは、無言のままオリビアを横抱きにした。


「ディルク!?」


 不意をうって横抱きにされたオリビアは、密接するディルクに顔を赤らめつつ「降ろして!」と宙に浮いた足をばたつかせた。


「支えがあれば、一人で歩けるからっ!」


 剣を杖代わりにすれば一人で歩けるとのたまうオリビアの提言を、ディルクは一蹴した。


「それで怪我を悪化させたらどうするのです?」


「悪化なんてしないもの。大丈夫よ」


「――私はオリビア様の命に従ってこの場を離れました。

 先ほどは私が従ったのですから、今度は私の言うことを聞いて下さい」


 王族の人間に貴族籍と言えど、下位にあたる者が命じるのは問題行動だが――その言動はオリビアを案じてのものだとわかるので、オリビアも無下にはできない。


 おまけにオリビアはディルクの提言をつっぱねて、オーロッドの襲撃を受けた経緯もあるため、ディルクに反論できなかった。


 顔を赤らめて、うつむいて口をつぐむオリビアを見て、ディルクはオリビアが抵抗しないのを確認すると、小さく息をついた。


「カイル殿下とフィーナは無事保護しました」


 ディルクの言葉に、オリビアは弾かれたように顔を上げた。


「本当に? 怪我は?」


「無事ですよ」


 ディルクが貴院生の休憩所に到着してほどなく、カイルとフィーナが自力で戻って来た。


 焦りをにじませる二人は、休憩所にいるディルクを見て顔色を変えた。


 二人ともディルクがオリビアの護衛として側についていると知っている。


 なぜディルクが貴院生の休憩所にいるのかと問いただすカイルに、ディルクは事の成り行きを話した。


 事情を聞いたカイルは顔を青くして、すぐオリビアの元に戻るよう指示する。


「姉上が危険だ」


 フィーナの伴魂が耳にした事情を、誰からとは告げずに話すカイルの言葉を聞いて、ディルクは状況を瞬時に理解した。


 弾かれる様に飛び出してしばらくすると、ディルクの伴魂と合流した。


 それはディルクがアルフィードに頼んでいたものだった。


 ――万が一のことが起きたら、伴魂を飛ばしてほしい。


 ディルクは自身の伴魂をテントに残して、緊急時の連絡手段としたのだ。


 アルフィードはオーロッドが不可解な行動をおこすとすぐに、ディルクの伴魂を飛ばした。


 合流した伴魂が目にした情景を、ディルクは意識下の疎通で知り、カイルの言葉が現実味を帯びているのだと痛感した。


 偶然居合わせたシンの後、ディルクが駆けこんだのにはそうした経緯があった。


 カイルまで行方知れずとなっているとは知らなかったが、フィーナと共に無事だと知って、オリビアはほっと胸をなでおろした。


「怪我をしたのはオリビア様の方でしたが」


 しらっとした顔をして苦言を呈するディルク。


 事実なので「う……」とオリビアも口ごもるしかない。


 テントが用を成せない姿となったことと、用心するためもあって、拠点を貴院生が休憩をとる場所に移すようディルクが指示を出した。


 オリビアも同意して、馬車や馬、徒歩など、それぞれの手段で移動することとなる。


 オリビアを抱きかかえたまま、ディルクは馬車へと運んだ。ちらりとアルフィードに目を向けると、シンが側にいたのでそちらはそちらで対処するだろうと判断した。


 オリビアはディルクの腕の中で、居心地が悪そうに体を硬くしている。


 歩調に合わせて、白銀の髪が揺れる。


 背の中ほどの長さを有する髪は、動きやすいようにと後頭部に結い上げていた。


 まとめていた髪も、騒動によるものだろう。いくつかのほつれが見えた。


 腕の中のオリビアを見下ろして、ディルクは改めて彼女の無事を確認した。


「――御無事で、何よりです」


 低く、絞り出すように呟くディルクの声を聞いて、オリビアはディルクがいつもと様子が違うことに気付いた。


 気恥かしさから俯いていたが、そろりと伺うように見上げると、熱のこもったディルクの眼とまともに視線があって、どきりと胸が高鳴った。




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