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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第三章 アールストーン校外学習
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49.校外学習二日目【ディルク】


 危機は脱したと、シンは息をついて緊張を解いたのだが――背後からの気配に首元がざわりと粟立つ感覚を覚えて、反射的に振り返る。


 振り返りざま、同じく反射的に剣を握りしめて構えたところで、日の光を反射させた鋭い一閃が、シンに見舞われた。


 ギン、と鈍い金音を聞きながら、歯を食いしばって、両手で握り締めた剣に力を込める。


 そうしながら、剣を向けた相手――怒りと殺気をみなぎらせたディルクが、合わせた刀身に力を込めて、ギリギリと力押ししてくる。


「お前……っ! 何考えてんだ!?」


「あなたこそ、何を考えているんです? 

 それはオリビア様の剣でしょう? 

 あなたが手にしていい代物だとお思いですか?」


 その一言で、シンはディルクの怒りの理由を悟った。


(「オリビア様至上主義」……!)


 普段、苦笑を浮かべるディルクの素地が、こんなところで自分に敵意を向けられるとは。


「あいつに対抗するためには必要だったんだ! 

 こっちは丸腰だったし!」


「奇妙な武芸でしのげたのでは?」


「うっわ、人の技を奇妙とか言うかよ、性格悪いな! 

 体術得意でも、通じない相手もいるんだよ! 

 今回がそれだったの!」


「おかしなことを。

 大した剣の腕も持っていないでしょうに」


「マジ性格悪いな! 

 その大したことない腕でも、やらなきゃしのげなかったんだよ! 

 お前の大事なオリビア様を護るためにな!」


「そうよディルク! 

 剣を降ろしなさい!」


 同所属の騎士の争いを諌めようと、オリビアが声を上げた。


 周囲の騎士は、二人の争いを呆気にとられて見ていた。


 シンの存在は他の騎士団にはあまり知られていない上、私服姿なので、どういった素性の者か、どう対応すればいいのか、戸惑いを滲ませている。


 騎士の面々は困惑しつつ、ディルクとシンの争いを遠巻きに眺めていた。


 オリビアの声を聞いても、ディルクは剣をおさめようとしない。


 本気で向かっているとわかるから、シンも剣を降ろせなかった。


「王女様に返せばいいんだろ!? 

 返すから剣を引けよ!  

 身動きとれないんだよ、こっちは!」


 ディルクは渋面の色を深めつつ、つばぜり合いする力を徐々に緩めて、最後にはシンと突き合わせていた剣を鞘に収めた。


 ディルクが剣を鞘にしまったのを確認して、シンは息をつくとオリビアに剣を返す。


 シンはディルクの剣の腕とその能力を認めているものの、時折見せるこうした行動が苦手だった。


 シンに返された剣を鞘におさめながら、オリビアはオリビアでディルクをそろりと見上げた。


「オリビアの護衛が少ない」と苦言を呈したディルクの言葉を無視し、厄介払いをしたが上での、オーロッドの襲撃だ。


「それ見たことか」と皮肉を言われても仕方ない。


 ディルクは温和な性格だ。


 自分の興味のある事柄には周囲が見えなくなり、相手の迷惑を考えない、ベルーニア家の血筋は受け継いでいるものの、声を荒げることはほぼなかった。


 セクルト貴院生だった時は、ザイルを重用していた。


 ザイルがフィーナの護衛としてドルジェに定住するようになって、ザイルの弟との流れで、ディルクを重用するようになった。


 長年、ザイルと接していたので、ベルーニア家の少々変わった性格にも慣れていたので、ディルクの突飛な行動にも「またか」と慣れていた。


 時折、奇行を見せるディルクだったが――激怒した彼を目にしたことはない。


 ディルクの苦言を無下にし自分を悔みつつ――恐ろしいのとバツの悪い思いで、まともにディルクの顔を見ることができなかった。




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