48.校外学習二日目【援護】
瞬時に間合いを詰める魔法を用いて、シンに切りかかる。
響く甲高い金音と低く鈍い金音が入り乱れる中、シンはオーロッドの剣戟をどうにかしのいでいた。
剣術に詳しくないアルフィードでも、シンが劣勢だとわかる。
シンは剣術を苦手としていた。
騎士団に所属したのは、素手の武芸の教授を請われたからだ。
オリビアが統率をとる騎士団ではシンが武芸を教え、シンは剣術を学んでいた。
剣の腕ではオーロッドに敵うわけがなかった。
剣戟の合間に、隙をみて武芸の技を試みているようだが、オーロッドには通用しない。
テントの中という剣を振りまわすには狭い空間により、動きを制限されている。
下手にテントを切り裂いて崩れようものなら、オリビアを庇う折、隙を与えてしまう。
テントを崩すのはオーロッドにも分が悪いらしく、その手段は講じる気配はなかった。
条件はオーロッドも同じだが、経験の差もオーロッドに部があった。
「っ!」
防戦一方のシンが、強戟に剣をはじかれて大きく後方へと退いた時、テントの幕間から素早い影がオーロッドに飛来した。
虚を突かれたオーロッドが、反射的に後方へと退く。
隼だった。
鳥は旋回すると、再びオーロッドめがけて突撃する。
向かい来る鋭い嘴を避けた先に、隼と重なるようにテント内に入ってきた騎士が、オーロッドに一閃を浴びせた。
オーロッドは反射的にその一閃を交わす。
若草色の、少しくせのある髪、同色の瞳。
その騎士を見たオリビア、シン、アルフィードは、一様に安堵の息をついた。
「ディルク……」
「遅いぞ」
つぶやくオリビアに、苦言を告げるシン。
「文句はオリビア様に言ってください」
普段、温和なディルクからは考えるられない静かな怒りをたぎらせている。
オーロッドに剣を向けたディルクは、周囲を見て、状況を把握したようだった。
「どういうことです、オーロッド殿」
「……さて。貴殿はどう思う」
「……話すつもりはない、と言うことですか。
――ならば、話したくなるようにするしかありませんね」
テント内を旋回していた隼が、ディルクの肩にとまる。隼はディルクの伴魂だ。
「――朱焔剣」
ディルクは小声で前詞を唱えた後、剣を顔前に真横に掲げて、呪文を唱えた。
呪文に呼応して、刀身全体に炎が宿った。
それを見たシンもオリビアも、ぎょっとした表情を見せる。
終始、余裕のある表情を見せていたオーロッドの顔色も変わった。
ディルクが使用した魔法は、今は刀身に炎が宿るものだが、使いようによっては一個団を殲滅させる威力を発揮させる。
「ちょっ、お前それやりすぎ――」
周囲に仲間がいて、しかもテント内という閉塞空間で使うものではないとシンが忠告したが、見事に無視された。
「投降するなら今の内ですよ。
ご存知だと思いますが、目的と定められれば逃れることは敵いませんから」
「――確かに、分が悪いな」
ディルクを見据えながら、オーロッドは周囲を確認する。
ディルクにシン、二対一の構図に自身の劣勢に思い至ったのだろう。
オーロッドはディルクとまともに対峙するのを早々に諦めたようだった。
そうした心情を推測できたのは、オーロッドがテントの要となる支柱に撃を与えたときだった。
オーロッドは不作法に剣を横薙いだ。
空疎な場を切り裂いた動きに、シンもディルクも最初何を目的にしたのか、その行為の意味をはかりかねた。
横薙いだ剣が支柱を切りつけ、柱を折った時には、シンもディルクもハッとして天幕を仰ぎ見た。
支えを失ったテントは、大きな音を立てて崩れ落ちる。
テントから離れた場所で待機していた騎士の面々も、崩れる騒音に驚いてテントに目を向けた。
何事かと騎士の面々が集まる中、ディルクはオリビアをかばいつつ、天幕を切り裂いて姿を露わした。
剣に施した魔法は消している。
天幕に近い場所で火を扱うのは危険だと、残っていた理性の部分で判断したようだった。
同じく、シンが、アルフィードを庇って頭上を覆う天幕を切り裂いて姿を露わにした。
ディルクもシンも、すぐにオーロッドを捜すが、姿は見当たらない。
テントが崩れた混乱に乗じて逃げたようだった。
ディルク登場です。
シンとディルクの登場のタイミング等、いろいろ迷いました。
ディルクの伴魂も登場しました。




