46.校外学習二日目【護り】
盾である硬盾には、いくつか形状がある。
手の平ほどの大きさのもの、片腕ほどの大きさのもの、頭上からつま先まで、半身ほどの大きさのもの、そして全身をくまなく覆う、檻状のもの。
小さいものほど強度が高く、大きくなると多少強度が低くなるが、強度に大きな差はない。その分、必要となる魔力の量が大きく異なった。
アルフィードも呪文を唱えると同時に、ぐらりと視界が揺れて、体から力が抜けた。
倒れた体勢で片腕をついて上半身を起こしていた体勢も保てず、体を横たえてしまう。
いつだったか、伴魂に多量の魔力を強制的に摂取された感覚に似たものを感じながら、身の内の不快さに顔をしかめた。内臓を探られる感覚は、幾度体験しても慣れるものではない。
オリビアに手が届く寸前で硬盾に手をはじかれたオーロッドは、驚愕に目を見張りながらもアルフィードに感嘆した。
「前詞を唱えず呪文のみで成したか……」
「アルっ!」
頬を地につけて倒れ込むアルフィードにオリビアが声をかけるが、アルフィードは身動きがとれない。
全身が鉛のように重い。
頭だけ動かしてオリビアの状況を見て、硬盾に守られているのを確認して、わずかに安堵した。
これで少しは時間稼ぎができた。
オーロッドが剣をふるい、硬盾の解除を試みていた。剣は堅強な盾にはじかれている。
堅強な硬盾も、長時間は維持できない。
救援が間に合うか、硬盾が先に解けてしまうか――。
(――アル、アルっ!)
アルフィードの伴魂が、意識下で何度も名を呼んでくる。
鉛のように重い体を、どうにか動かそうとするアルフィードに「動かないで、これ以上無茶しないで」と訴えていた。
アルフィードが唱えた硬盾も、無理をした力技だ。
普段、使い慣れない魔法は、前詞を唱えなければ発動する可能性は限りなく低い。
だというのに、それを実現させた上に効力が多大な魔法を使用した。
使い慣れない魔法を、前詞無しに成し得た場合、前詞を唱えた場合より多くの魔力を消費する。
アルフィードが倒れて動けないのも、そうした理由からだった。
オーロッドは硬盾に数度、斬りかかったものの、盾は激しい金属音と共に火花を散らせて、中のものを守っていた。
とっさのこととはいえ、アルフィードが唱えた硬盾は堅強で、持続時間も長いようだ。
アルフィードが安堵を深めた時、オーロッドがため息をついた。
「……いた仕方ない」
そうつぶやくと、柄を右手で掴んだまま、体の前に真一文字に構えると、左手を刀身の切っ先に添える。
そうした体勢で目を閉じて、小さく何かを唱えていた。
唱え終えたオーロッドに呼応して、刀身が榛色の輝きを灯した。
くすんだ、薄茶色にも見える黄色の光を見て、アルフィードはなぜか、ざわりと首元に寒気を感じた。
伴魂も同じく、心乱している様相が伝わってくる。
それがなぜかを理解するより先に――声を発するより先に――オーロッドは榛色の光を灯した剣を、静かにゆったりとした動作で、硬盾に振るった。
弧を描く剣が、硬盾に触れる。
触れた瞬間。
――パキン
……と。
薄氷を軽い力で割ったごとき軽微な力で、アルフィードが成した盾を無効化したのだった。
すみません……。更新分、短いです……。
戦闘シーン、苦手です……。
他にも、どう話を進めようかと迷いながらというのも、書くのに時間がかかりました。
ある程度、先が決まったので、更新できました。